いま必要なのは、診療科のボーダーレス

 遅れているという日本の性差医療。実際にどういう弊害があるのだろうか。

 例えば、女性に特有の更年期障害。かかりつけの内科に行って男性の医師に症状やつらさを説明しても、教科書通りの一辺倒な対応しかしてもらえなかったりする。では、女性医師のいる産婦人科に行けばいいかというと、その医師の専門が女性のヘルスケアではなく、婦人科がんやお産の場合は、同じような目に遭う可能性もある。

「ひと口に更年期障害といっても症状や治療法は人それぞれなのですが、一見、専門の医師がいそうな医療機関に行っても、きめ細かい対応をしてもらえないことがあります」

 女性に多い更年期障害ですらそうなのだから、「微小血管狭心症」という更年期の女性に見られる特殊な狭心症の場合、何年にもわたって診断されずに“原因不明の胸痛”で苦しんでいる患者も少なくないという。

まずは医学部の教育に性差の視点を学ぶ場が必要です。そして大事なのは、特に更年期診療では産婦人科と内科の医師で連携をとり、一人の女性の生涯を診ていくという考えを持つことです。診療科の垣根を越えて患者さんを“共有”することは簡単ではありませんが、病気を理解されずに苦しんでいる女性が多くいる現実を直視すべきですし、更年期のケアが社会全体の活力になるはずです。性差医療にいま必要なのは、ジェンダーレスではなく、診療科のボーダーレスではないかと思います

また、女性医療という点から考えれば、女性の医師の存在が大事なことは言うまでもない。出産や子育てで現場を離れるケースが多いという理由から、医学部の女性受験者の点数を一律に減点させた医学部のことは記憶に新しいが、女性医師の産前産後のケアも充実させる必要がある。

女性の社会参加や晩婚化に伴い、今後ますます病気の形態や経過が変わっていくだろう。日本の性差医療が進むことを期待したい。

赤澤純代
金沢医科大学病院女性総合医療センター長。金沢医科大学総合内科学教授。日本性差医学・医療学会評議員。天野恵子先生、対馬ルリ子先生、秋下雅弘先生を師とあおいでいる。