SMも5日の提訴という行為に対し立場を表明している。まず、「アーティストの報道資料は多くの部分が事実と異なる。そして、今回の事態を生んだアーティストの意図が新規専属契約の効力を否定する目的のため行われたことがはっきりと明らかになった」とし、「アーティスト3人を含めたEXOのメンバーは既存の専属契約終了を前に行った再契約はまったく強制的ではない状況で大手法律事務所の弁護士の下、当社と十分な合意をした新規の専属契約を交わした」と契約内容の正当性を強調した。

「ガスライティングのような状況とも無関係ではない」

 このSMの見解に3人のメンバーは、こんな心情を吐露している。

「SMがEXOのメンバーが自発的に新規契約を結んだという主張については、持続的な懐柔とそんな雰囲気が作られていた。個人が再契約へ応じなければ残りのメンバーやチーム全体に不利益を被るという話をされてきた。それでも再契約にサインしたのはただEXOメンバーとの義理を守り、EXOを守らなければという思いからで、正直にいえば、契約内容についてはほとんど諦めの境地でサインしたのが事実。

 私たちの無気力な当時のことは、長い間培われたSM特有の閉鎖的であり団体的な雰囲気、さらには最近メディアでいわれるガスライティングのような状況とも無関係ではないという思いまでするほど」

 ガスライティングは、正常な判断力を奪う行為で、そう思い込ませ、心理的にコントロールすることをいう。

 SMはこの2月にはお家騒動が起きたが、結局、創業者の李秀満氏はSMを去り、現在SMの二大株主はカカオとその傘下のカカオエンタテインメントで、新生SMを謳っていた矢先だった。

 真実がどこにあるのかまだわからない状況だが、大手事務所でこれほど契約問題が俎上にあがるのはSM以外にはないことは事実だ。契約期間のみならず、収益の内容にまで踏み込んだ今回の騒動は、K-POPが世界的な人気を集める中で、それを支えてきたアーティストと、事務所の関係性に重い一石を投じている。


菅野 朋子(かんの ともこ)Tomoko Kanno
ノンフィクションライター
1963年生まれ。中央大学卒業。出版社勤務、『週刊文春』の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』(文藝春秋)、『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)がある。