求められるものと方向性の違いで苦しんだ

応援ソング的な曲から、ラブソングの名手としても知られていく
応援ソング的な曲から、ラブソングの名手としても知られていく
【写真】岡本真夜がプロデュース中のアイドルグループ『milk&honey』のメンバーたちと

 一方、この大ヒットの流れで、事務所やレコード会社からは「次も応援歌的な曲を」と求められる。岡本も努力して作詞・作曲に励んでいたが、自分が本当に歌いたいのはバラード曲。なかなか事務所の意向に沿う曲を生み出すことができなかった。

 そのうち、あくまでもアーティストとして歩んでいきたい岡本と、ヒット路線を狙う事務所との間の溝が深まっていく。進みたい方向にいけないと感じた岡本は、事務所に「契約解除」を申し出るが、これが大きなトラブルへと発展してしまう。

「当時はまだ21歳で、私も上手に立ち回れなかったんです。簡単にはやめさせてもらえず、事務所のスタッフたちから叱咤されたり、親族からも『面倒を見てもらった事務所をやめるおまえが悪い』と責められて……。そして事務所問題がなぜか週刊誌に掲載され、記者が自宅前で張っていたりしたため、2か月家に帰れず、当時のレコード会社の社長が用意してくださったホテルで暮らしていました。孤独でしたね

 裁判にまで発展したが、レコード会社の社長が守ってくれたおかげでなんとか和解することができ、個人事務所を設立する。

 そして3枚目のシングル『Alone』で念願のバラードを披露。このとき「やっとスタート地点に立てた」という幸福感に包まれたという。

 その後は切ないラブソングの名手として、岡本は才能を発揮していく。

「『Alone』をリリースしてから、数えきれないくらいのファンレターをいただき、やっと認められたと安堵しました。私にとっては『Alone』が本当のデビュー曲という感覚です」

 ただ、環境を変えてももめごとは続き、人間不信になることもあった。

「音楽を売っていく以上、自分が商品という立場でもあることは理解しています。ただ、お金儲けだけのために寄ってくる人や、お金が入ったことで変わってしまう人、岡本真夜の名前を自分のためだけに使いたい人たちをたくさん見てきて、人を信じられなくなりました。私はお金のためではなく、純粋に自分の思いを伝えるために音楽を作っていきたいのに……」

 制作だけに集中できないもどかしさを抱えることが多かったが、「とにかくマイペースなところが長所であり短所」と岡本は自分を評する。

 おとなしそうで穏やかな見た目と異なり、周囲に流されず、アーティストとしての自分を守るための選択をしていく。

「その分、悪く言われたり、あることないこと言われたりすることもありますけどね(笑)。商品ではあるけれど、操り人形ではないですし、自分で生み出した作品は自分で守りたいと思う。人に流された人生は後悔しか残らないので。

 何度か、安定している大きな事務所に入ることも考えましたが、メリットがある反面、自分がやりたくないことのほうが増える気がして、結局、ずっと個人事務所でやってきました」

 2022年末、自分のスタンスを理解してくれる事務所とスタッフに出会え、マネジメント業務委託という形で新たにスタートした。

苦しい経験もしましたが、つらいことがあったほうがいい歌が書けたりもするんですよ」と逆境をバネにするたくましさも備えている岡本。

 タレントの島崎和歌子はそんな岡本を「真夜ちゃんはまさに“はちきん”」と称する。

 はちきんとは、土佐弁で“自立心の強い女性”を指す言葉だ。岡本、島崎ともに高知の出身で、2人に共通する県民性がまさに“はちきん”であった。