存在そのものが日本人のカンフル剤

さらに、大谷選手の本当の魅力は「その屈強な体躯と、超人的な野球選手というだけでなく素顔の無邪気さ、可愛らしさ、人間らしさにある」と考える人も多い。

 今年の年収は推定43億円にものぼるとされる超一流セレブ選手となっても、一切浮ついた私生活を見せず、ひたすらに精進するストイックさ。その反面、大谷選手の笑顔には、見る人を安心させる人柄のよさがにじみ出る。

「本来日本人が美徳としてきた部分が、すごくうまく体言されている人ですよね。謙虚で実直で勤労的。そんな彼が、アメリカで非常に受け入れられていることは、同じように生きてきた人が肯定されたような気持ちになり、救われる部分もあるのでは」

 コロナ蔓延からの経済的な影響の余韻がまだ色濃く残り、また世界情勢による物価高で、鬱屈感のある日本。さまざまな分野で国力の低下を実感するニュースも多い。そんな中で、大谷選手のアメリカでの活躍が一種のカンフル剤となっていることは間違いない。
 “推し活”などと同じで、間接的に見ることでテンションが上がったり、ワクワクしたり、穏やかになったり、そうした手段を持っておくことは精神衛生上役立つ。

彼のニュースを見て、勇気をもらえるといった人は、写真などを壁に貼ってながめるのもいいと思います。やはり目でみることで、自分を奮い立たせるといった一定の効果があります

 過去に、ここまで誰にでも愛され、敵さえも味方につける、人気と実力を兼ね備えた選手はいただろうか。

「本当に稀有な存在ですよね。同じ時代に生きてくれて感謝したくなるような(笑)。うまく頼って、このストレス社会で、自分の気持ちをうまく調整することが大事なのかなと思います」

 現在、レギュラーシーズンの半分以上が消化されているメジャーリーグ

 この結果次第ではあるが、ポストシーズンへ進出、さらには最大の盛り上がりを見せるワールドチャンピオン決定戦までの奮闘を期待したい。

前田佳宏医師 まえだ・よしひろ
2013年島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科専門外来を経験。現在は和クリニック院長。生きづらさを最短で軽くするセルフメンタルケアの講座や情報発信をする。 産業医やメンタルヘルス企業の社外顧問としても活躍。