「やりたいと思ったことは全部やる!」

 手術によるがん治療が不可能となり、残されているのは化学療法による治療のみ。新薬の分子標的薬での治療は予期しない副作用を引き起こした。以来、副作用を抑える薬も加え、1日20~30錠もの薬の服用が日課となっているのだとか。

 教師として現在もバリバリと働ける状況は薬が支えているといっていいが、がんに目覚ましい力を発揮するこの最先端治療は副作用もまた強烈で、皮膚のかゆみや嘔吐感、腸炎などに悩まされる。

「子どもを持ちたいと服用をやめたときもありましたが、あっという間に再発しました。私は生きている限り、薬による治療を続けざるを得ません」

手術後、傷がだいぶ落ち着いたころ。お腹の皮膚を移植した部分は髪が生えないので、いつも隠していた
手術後、傷がだいぶ落ち着いたころ。お腹の皮膚を移植した部分は髪が生えないので、いつも隠していた
【写真】手術後、ぎりぎり間に合った卒業式で涙を浮かべる三井さん

 そんながんは、里美さんの人生観を大きくチェンジさせるものともなった。

「ステージIVのがんまで経験すると、明日生きているかわかりません。主治医からは“次の桜(を見るの)は難しい”と言われました。そうした状況に立たされてみると、のちのち“あれもやりたかった、ここにも行きたかった”はイヤだと思ったんです。

 やりたいことは先延ばしせず、元気なうちにやろうと思うようになりました」

 結婚当時は撮れなかった和装での結婚写真を撮ったのもそのひとつ。

 さらにはもっとも欲しかったもの、つまりは子どもを持つことも決めた。現在、念願のわが子を抱くべく、何か方法がないかと探している最中だ。ステージIVで子どもを持つ希望に対してパートナーは同じ目線で寄り添ってくれている。

「いろいろ話をしましたが、“もしも私が死んだらひとりだよ。ひとりで生きていける?”と尋ねました。そしたら(パートナーは)言葉に詰まったんですよね……。“私の代わりにあなたを支えてくれる人がいたらうれしい。私はそれを子どもに託したい”そう言ったら、夫も“オレもそう思う”と言ってくれました」