健康あっての家族と仕事

 現在の大きな懸念のひとつが、ドラッグラグの問題だ。

 これは、海外ではすでに使われている薬が日本で使えるようになるまでの時間差のことを言う。時間差発生の理由はさまざまだが、皮膚がんの場合、日本では希少がんであることも理由のひとつであるという。患者の数が少ないため、治験を進めたくてもなかなか進められないのだ。

「薬って、効かなくなるときが来るんです。私が今、飲んでいる薬が効かなくなったら、オプジーボやヤーボイという薬での治療に移行することになりますが、もしもそれが効かなかったら打つ手なし。でも、ドラッグラグが解消されれば、選択肢が増えることになるんです」

 大病を患った人の例にもれず、健康はなによりも大切と考えるようにもなった。

「私は自分の仕事にかまけていて健康にきちんと向き合うことができなかった。だからみなさんには健康を大切にしてほしい。“迷惑をかけるから仕事を休めない”とはよく聞きますけど、死んだら職場や家族にもっと迷惑をかけるじゃないですか(笑)」

 仕事も家族も、当人の健康あってのもの。そして、夫に並ぶ支えとなっているのが生徒たち。

「普段は私のことをまったく病人扱いしません。だから、教室は自分が闘病中だということを忘れさせてくれる唯一の場所なんです」

 一方で、入院中にお見舞いに来てくれた卒業生のひと言が心に刺さる。

「“先生、笑っているといいことあるからさ”と。何げないひと言ですが、そのとおりだなあって」

 ステージIVと告知され、うつ状態になったこともある。だがどん底まで来たら、あとはもう、浮き上がるしかない。生徒が発した言葉を信じ、明るく、笑いながら、今日を懸命に生きている──。

三井里美(みついさとみ)さん●1984年北海道千歳市生まれ。大学院卒業後、フリーアナウンサーに。2013年から教員。34歳で皮膚のがんと診断された。現在札幌市で夫と2人暮らし。

(取材・文/千羽ひとみ)