最新医療は高額だがその効果は絶大

 着実にがんは減り続け、同時にあれだけ悩まされていた激しい痛みも消えていく。体重も一時は55kgから44kgまで落ちたものの、現在は51kgまで戻している。

「治るんだと思ったら、頑張って食べなきゃと思って。最近料理を始めました。やってみると楽しいんですよね。子どもたちにも好評です(笑)」

 体力も順調に回復し、昨年末には闘病記『がん「ステージ4」から生まれ変わって いのちの歳時記』を出版。この春には俳優業にも本格復帰。NHK BSで5月放送予定のドラマで伊東四朗と共演し、主要キャストを務めた。久々の撮影にベテラン俳優も緊張を隠せなかったよう。

「きちんとセリフを覚えて行ったのに、“なんだっけ、なんだっけ”と出てこない。若い女優さんに、『小倉さんでも緊張するんですね』って言われちゃいました(笑)。だけどドラマというのは集団作業でやはり楽しいもの。あの現場に帰ってこられてよかったなと思いましたね」

 ステージ4のがんを克服し、日常を取り戻した今、改めて夢に取り組んでいると話す。

「まず俳句結社をつくり、芸名を「小倉蒼蛙」に改名しました。あと映画も撮りたい。30年間温めている企画があって、その監督をしたいと思っています。やれることはもうどんどん早めにやろうと思っていて。というのも、僕としては、再発はあると思ってるから」

 がんで怖いのがやはり再発だ。現在も月に一度の定期検査と維持療法が続く。

「覚悟はできています。ただまた再発したとしても、やれるだけのことはやるつもり。支えてくれる人たちのためにも、ちょっとはジタバタしなきゃと思っているんです」

外反母趾を手術したため杖をついて歩くが、がんは克服し健康そのもの。取材にも徒歩でお越しくださった
外反母趾を手術したため杖をついて歩くが、がんは克服し健康そのもの。取材にも徒歩でお越しくださった
【写真】取材にも徒歩できた小倉一郎(蒼蛙)さん

小倉さんが行ったがん治療

【カルボプラチン】貴金属のプラチナを含む金属化合物の抗がん剤。がん細胞内に取り込まれると遺伝子本体であるDNAと結びついて合成を阻害し、がん細胞の分裂を止め、やがて死滅させる。

【ペメトレキセド】細胞のDNA合成に不可欠なビタミンの一種・葉酸によく似た抗がん剤。投与すると葉酸と間違ってがん細胞に取り込まれるが、あくまでも偽物のためDNAは合成不可能に。結果、がん細胞はうまく分裂出来なくなり死滅に追い込まれる。

【ペムブロリズマブ】がん細胞から免疫の一員・T細胞に発信される「攻撃中止の信号」を遮断する、免疫チェックポイント阻害薬。投与されることでがん細胞によってブレーキがかけられていたT細胞が再び活性化。がん細胞を撃退する。

【サイバーナイフ】放射線治療の一種。位置補正の精度が高く、正常な細胞を傷つけることなく転移部分だけを狙い撃ちする。

出典:『がん「ステージ4」から生まれ変わって いのちの歳時記』(双葉社)小倉一郎著

小倉一郎(蒼蛙)さん/1951年東京生まれ。'64年、映画『敗れざるもの』で本格デビュー。以来ドラマや映画に多数出演。結社「あおがえるの会」を主宰する俳人の顔も持つ。

取材・文/小野寺悦子