「結婚するわけでもないのに何で付き合うの?」

 一度こだわると頑として聞かない幼稚園児は、小学校でもその後進んだ岩見沢市立光陵中学でも、成績優秀で通した。だが「計画性」はゼロで、宿題を片づけるのはいつも朝。試験は一夜漬けが常だった。

「映画『レインマン』で、一度見たものを映像として覚える写真記憶術が描かれていましたけど、僕にもわりとその力があって。大学1年ぐらいまでは、それで覚えてました。その後、お酒を飲みすぎて脳が破壊され、どんどんできなくなっていきましたけど」

 前出の妻・和嘉子さんが子ども時代のこんなエピソードを語る。

「高校生のころだったか、足が速くて、バスに乗っていた友達よりも目的地に早く着き、“超人”と呼ばれていたそうですよ(笑)」

 足の速い一夜漬け名人は、小学校高学年から中学までラジコン模型にのめり込んだ。

「それもエンジンまでついている、子どもじゃ買えない約10万円の大型セット。実はオヤジが好きだったんだけど、自分で買うと母親に怒られるから僕が買ったことにして。

 夜、僕を連れてスナックとかに配達に行った後に模型屋さんで買って、トラックの後ろに隠して持って帰る。母親に見つかったら怒鳴られるから隠し持って、そしてサーッと部屋に入るんです(笑)」

 そうして手に入れた複雑なラジコン模型を、徹夜を重ね、3か月かけて作り込む。嫌いなことは一夜漬けでも、好きなことに対しては徹底的にのめり込んだ。

 ここまでだったら“優秀な小学生の武勇伝”で終わるだろう。だが、大人の手前、中学ではそれでは済まされなくなっていく。成長するにしたがって周囲から、学校という“社会”に適応することを求められるようになるからだ。

友人といえる者がいない

 ある年のバレンタインデーの前日のことだった。とある女子が、成績優秀で足も速ければ部活のバスケもうまい西脇少年にチョコを渡すことを決意した。女の子が頬をほんのりと赤らめながら「西脇クン、明日の朝、ちょっと早めに来てくれる?」と言うと。

「僕はいつもギリギリに登校していたから、“なんで俺がそんな早くに呼びつけられなきゃいけないんだ!?”と。

 当日、呼び出されたことを忘れて普通に登校したら、呼び出した女の子が泣いている。ほかの女の子からも“西脇クン、ひどい!”って。でも、“なんで勝手に泣いてるんだよ”“なんで俺が怒られるんだ?”と理解できなかったんです」

 そういえば小さなころから目立つ子で、小学校では児童会長を、中学でも学級委員を務めていた。だが、同級生やら大勢に囲まれてはいたものの、友人といえる者がいない。しみじみと語り合えるような親友や、一緒にいたずらをして笑い合うような友人は皆無だった。

 さらにはこの年頃にはつきものの、異性の話にもついていけない。同級生の“あのコがかわいい”“誰と誰が付き合っている”という種類の雑談に興味が湧かず、昼休みはそんな話に花を咲かせる同級生を尻目に机の上で突っ伏している。そしてそんな状態に、なんの不満も覚えない。

 “もしかして自分はほかの人と違うのかも……”幼いころからうすうす感じていた疑問が、確信へと変わり始めてきていた─。