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ー 「表現の自由」規制の難しさ

 日本社会の現状に、「遅れてる! 海外ではありえない!」なんて目くじらを立てている人もいますが……。いえいえ、他の国の皆さんも有名人や王室のゴシップや下ネタは大好きで、若者はおバカなことをしでかすし、高齢者は変なこだわりで周囲を振り回すし、しょーもない男女のケンカも日常茶飯事なんですってば! そんな世界の下世話なニュースを、Xで圧倒的な人気を誇る「May_Roma」(めいろま)こと谷本真由美さんに紹介していただきます。大食い動画が欧州で大流行した結果、もたらしたものとは……。

「表現の自由」規制の難しさ

 韓国発祥の食事系動画「モッパン」が、欧州でも流行しています。食レポ風の動画や、咀嚼音など音に焦点を当てたASMRが人気を集めていますが、とりわけ大食い動画が人気を集め、ヨーロッパでもまねをする若い世代が続出。その結果、のどに食べ物を詰まらせて亡くなってしまう人まで出てくる事態に発展しています。

 かつて日本でも、当時人気番組だった『フードバトルクラブ』(TBS系)の影響を受けた中学2年生が、友人と早食い競争をした結果、のどにパンを詰まらせて亡くなる悲劇がありました。この事故を受け、早食い・大食い番組は長らく自粛。安全対策を徹底すると宣言し、大食いに絞って特番が復活したという経緯がありました。

フードファイターの小林尊。アメリカで抜群の知名度を誇る(本人のインスタグラムより)
フードファイターの小林尊。アメリカで抜群の知名度を誇る(本人のインスタグラムより)

 しかし、SNS上に流れてくる動画はテレビと違って規制することができません。また、まねをする当事者もバズりたい一心で安全面を考慮しないケースも目立ちます。「摂食障害を助長しかねない」「フードロスに逆行する」という意見が根強い中で、大食い動画が後を絶たない欧州の現状は、大きな議論にまで波及しているほどです。

 確かに、規制をかけるにしても、配信している個人に対してなのか、こうした動画を配信することを容認しているプラットフォームなのか、そもそもネット社会をつくり上げているインターネットプロバイダーなのか……その判断は難しいですよね。しかも、欧州には「表現の自由を尊重する」という法的枠組みとして「ヨーロッパ人権条約」が、1950年に採択され、EU加盟国に法的拘束力を持つほどです。そのため、16歳未満の子どもがSNSを利用することを禁止する法案を可決したオーストラリアのようにはいかないという背景があります。

 EU各国も、大食い動画をきっかけに表現の自由を再考しなければいけないとは思っていなかったでしょう。ですが、自国が放映するテレビとは違い、SNS時代は他国のコンテンツが簡単にスマホから流れてきてしまいます。伝統的ともいえるヨーロッパの規約は、このギャップに対応できず、むしろ逆手に取られているのですが、そのお話は次回に詳しくお伝えしましょう。

谷本真由美 たにもと・まゆみ 1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。X上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いポストで人気を博す。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数。 イラスト/西原理恵子
谷本真由美 たにもと・まゆみ 1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。X上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いポストで人気を博す。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数。 イラスト/西原理恵子

構成/我妻弘崇