年齢を考慮されない過酷な労働現場も!
一方、働くシニアが増えて新たな問題も生まれている。
「2020年前後から、65歳以上のシニア世代からの労働相談が増えました」
そう指摘するのは、労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」理事の坂倉昇平さん。特に多いのは、若い世代が敬遠しがちで職場のシニア割合が高い介護や清掃、警備などでの労災相談だ。
「ほぼシニア層が担っているといっても過言ではない新聞配達員の交通事故なども少なくない。いずれにしろ、人手不足が心配されている仕事ばかり。いかに高齢労働者がエッセンシャルワーカーとして社会を支えているかわかります」(坂倉さん、以下同)
人手が足りない現場ゆえに、無理をして働かざるをえない場合も多く、勤務中の事故やケガのほか、病気などの労働災害に関する相談もあると坂倉さん。シニアの労働者は「シワ寄せを受けている」と危惧する。
例えば、清掃業で働く70代の女性は、人手が足りないからと勤務時間をどんどん増やされ、清掃作業中に階段から落ちて骨折し相談に訪れた。
「転落事故は勤務過多のせいではなく“年齢のせい”で起きたことだと決めつけられ、労災保険の休業補償給付の申請をさせないために出勤までも強要されるという状況でした。
ここまで悪質でなくとも、体調を崩したら“何とか頑張って”と断れないように迫ったり、退職を口にすると“○○さん(同僚)が困るよ”と責められたという話はよく耳にします。さらに、同じ業務でも若者よりシニア世代のほうが低時給ということも起きています」
加えて、肉体労働や単純作業、軽作業の仕事自体が軽んじられているという現実もある。夜間の施設警備を行う60代後半の男性は、見回り時の懐中電灯すら会社が用意してくれず、ケガを防ぐために自腹で用意した。
「“高齢者がする簡単な仕事”だと過小評価され、安心安全な仕事環境を提供してもらえないケースも。シニア世代は転職がしづらい、労働環境が多少悪くても若者のように声を上げたりSNS等で拡散することがないので“足元を見ている”と感じることが多いです」
シニアが働くことは、お金を稼ぐためだけでなく、社会とつながりが持て、体力維持にも役立つとして奨励されているが、根本的な問題が隠されているのではと坂倉さん。
「健康や社会貢献は大事ですが、低年金による経済的な不安定さや、シニアの労働環境に対する配慮のなさを覆い隠すための建前になってはいないか。危険な職場でも我慢して働かないと生きていけないような社会は、変えていかなければならなりません」