遺言書があってもトラブルは起こり得る

 次は相続に絡む落とし穴として、遺言書の存在が明暗を分けることを指摘する。

「遺言書は、生前に自分の財産を誰に、どれだけ残したいか、意思表示する書面です。親の遺言書がないときは相続人全員の話し合いで遺産の分け方を決めるため、相続争いを招きやすくなります」

 福村さんいわく、遺言書を準備しているのは約10人に1人の割合。親に作成を頼んでおくべきだが、遺言書があっても争いは起こり得るという。

「親の死後、初めて知る遺言書の内容に納得できない相続人がいると、もめごとにつながります。例えばきょうだい間で、『お兄ちゃんはマイホーム資金を援助してもらった』『お姉ちゃんは介護の手伝いや費用を負担してこなかった』などと主張し、遺産の取り分を増やそうとするわけです」

 このような骨肉の争いを避けるには、遺言書の内容を秘密裏にせず、親子で作成にあたる必要がある。

「親が財産の分け方について自らの意思を伝え、そのうえで遺言書を作成してもらうのがベストでしょう」

親の実家やお墓が子には“負の遺産”に

 相続でネックになりやすいのが親の不動産。代表格の実家について、所有者(親)の名義になっているかどうかを確認しておきたい。

「祖父など亡くなった人の名義のままだと、親から子への不動産相続で相続人が増えて苦労します。私の担当例では10家族にまたがる話し合いを続けているケースも。不動産の所有者に名義を書き換える相続登記は2024年4月1日から法律により義務化されたので、親を促して手続きを急ぎましょう」

 さらに実家の相続には空き家リスクが伴うことを忘れてはならない。

「親は自宅の処分になかなか踏み切れません。結果、親亡き後に子が相続し、空き家のまま放置せざるを得なくて負の遺産となります。この流れを断ち切るには、子の負担を認識してもらい、家じまいを後押しすることです」

 負の遺産となるのはお墓も同じ。親から引き継ぐお墓の場所と子の生活拠点が遠く離れていたら、管理に手間と時間をとられ、費用もかかる。そこで注目を集めているのが墓じまいという選択。

「墓じまいは、現在の場所から管理しやすい場所へお墓を移すこと。手続きは簡単ではなく、費用も30万から300万円ほどが相場となり安くないですが、子の負担は大きく減らせます」

 また、親が最期にどんな医療を望むのか、きちんと聞いておかなかったために陥る落とし穴も。

「今の日本の医療では、延命につながる治療行為がエンドレスで行われ、必然的に費用はどんどん積み上がります。そこで親の望みを事前に聞いていれば、治療行為にストップをかけられたり、在宅での看取りに切り換えられたりするんです。もしものときの医療やケアを事前に家族や医療関係者と話し合い、共有する『人生会議(ACP※アドバンス・ケア・プランニング)』が浸透し、2025年4月から施行の『かかりつけ医機能報告制度』により今後、環境整備が進んでいくと思います」

 親が元気なうちしか話し合いはできない。終活トラブルを回避するために、“縁起でもない話”をできるだけ早めに切り出したい。

教えてくれたのは……福村雄一さん●司法書士。司法書士法人福村事務所、代表司法書士。「縁起でもない話をしていこう」をキャッチコピーに、お金のACP(人生会議)を実践し、ライフケア業務に取り組む。最新刊『終活の落とし穴』(共著)など著書多数。

<取材・文/百瀬康司>