大伍容疑者は包丁を構え、紘佑さんは「やめろよ」と手でブロックしようとしたとみられる。
「目を開けなさい!」
それが災いしたのか、刃は動脈が走る肩付近のやわらかいところに刺さった。
「お兄ちゃんはバタンと床に倒れ、周囲は血だらけでした」
母親は倒れた長男のそばを離れなかった。
「大伍に“早く110番して”“枕持ってきて!”“もっとタオル持ってきて!”と指示して、“救急車が来たら部屋に呼び込んで”と言い、大伍は走って通路に飛び出しました。
思い出すのもつらいのですが、私はお兄ちゃんの頭の下に枕を入れ、次第に意識がなくなっていくなか“目を開けなさい!”“もうヤだよ!”と何度も呼びかけました。それでも瞼は、少しずつ、閉じていってしまって……。
大伍はパニックになっていましたが、救急車のサイレンが近づくと、通路で私と“ここです! ここです!”と、大きく手を振りました」
事件後、大伍容疑者とは面会できていないという。留置施設でパニックになってはいないか、と心配している。
「無理してでも夕ごはんを作ればよかったとか、包丁を目に入らない場所に保管しておけばよかったとか、自分を責めてしまいます。赤の他人に刺されたほうがマシだったと考えたり。
お兄ちゃんとは最近“うなぎ食べたいね。今度、食べに行こうね”と話していたので、出棺のときは、うなぎか、私の作ったお弁当を入れてあげたいです」
紘佑さんは「母ちゃん、母ちゃん」と母親を慕っていたという。事件4日前の『母の日』は「母ちゃん、いつもありがとう」と労ってくれた。「とてもいい子で、申し訳ないくらい母親思い」と話す。
兄弟の写真を見せてもらうと、いずれもガッチリ体形で精悍な顔立ちの青年だった。母親は“お兄ちゃんは、大伍のことを許してくれるんじゃないかと思いたい”という。