
苦しい練習に耐える日々だったが、思うような結果が出ないことも多かった。
「県内の大会では負けることが多かったんです。表立って泣くことはないですが、タオルで顔を隠して、歯を食いしばりながら泣いてましたよ。次は絶対に勝ってやるぞという思いを持っていたはず。だからこそ“なぜ負けたのか”と、勝つために対戦相手の研究も熱心にしていました」(前出・森山さん、以下同)
絶対に勝ってやる─。闘争心は、誰にも負けなかった。森山さんが、よく思い出すのは、出稽古の帰り道だという。
「出稽古が終わると夜8時半ぐらいなので、帰りに食事をするんです。私が“なんでも好きなものを食べろ”と言うと、小学生なのに大人顔負けの量を食べるんですよ。ラーメンから寿司まで、もうなんでも。遅くなると次の日に差し障りが出ますから、すぐに帰ろうと思っていたのに、まったく食事を終える気配がない(笑)。私が“もう帰るぞ”と言うまで食べていました」
「試合でビビってしまう」
貪るように食べるのも、勝利を手にしたいという思いがあったからかもしれない。
「当時の泰輝は、背は高かったのですが、身体自体は細かった。体重が増えれば試合が楽になると話してはいました。ただ、無理に食べる必要はないとも伝えていました」
勝利のため、必死に努力を続けた。だが、ある“弱さ”が大の里にはあったという。
「試合でビビってしまうんです。相手がちょっと大きかったり、強いなと感じたりすると、試合に甘さが出て、攻め込まれて負けていました。ビビっていると表情に出るので、すぐわかる。そういうときは“大丈夫だから!”と活を入れて送り出していました」
大の里は小学6年生のとき、貴乃花や稀勢の里など数々の強者を生み出した『わんぱく相撲全国大会』に出場する。しかし、5回戦負け。
「それでも私は、高校、大学へと進んだら、絶対にすごい選手に成長すると思っていました。大器晩成なんだと」