「認知症=ネガティブ」ではない

 裕福ではないけど、持ち家はあるような、差し当たってお金に困っているわけではないといった中流階級の人々からすれば“家族かお金か”─どちらかを選ばされるようなものですから、まるでシェークスピアの戯曲のような選択に迫られるのです。

 その一方で、イギリスでは支援団体による精神的なサポートや交流の場の提供は、日本よりも断然多いです。おそらくキリスト教の「友愛」の精神が根づいているからでしょう。介護する家族が抱えるメンタル面をケアしたり、必要なアドバイスを提供する民間の支援団体が数多く存在し、資金も寄付金などによって集められています。

 例えば、認知症の方(とその家族)が集うカフェがあり、同じ境遇の人たち同士で情報交換ができたり、大手映画館が認知症の方を優先する映画上映会を実施するなど、認知症であっても楽しめるような工夫や配慮が施されたイベントが定期的に多数開催されているんですね。

 公的なサービスが限られているからこそ、相互扶助が発展したともいえますが、認知症の当事者と家族が疲弊しないように支え合う考えが根本にあるからこそ、認知症=ネガティブとはあまり捉えられていません。オープンに語り合える場があることでふさぎ込まない。この発想は、私たち日本人も見習いたい考えですよね。

谷本真由美 たにもと・まゆみ 1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。X上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いポストで人気を博す。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数。
谷本真由美 たにもと・まゆみ 1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。X上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いポストで人気を博す。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数。

構成/我妻弘崇