映画を見ると、麗華さんがまっすぐな心を持ち、コミュニケーション力も高いことがうかがえる。応援してくれる人が多いのもうなずける。

「孤立しない社会の実現に貢献したい」

自分が特別だったのではなく、たまたま運がよく、多くの支えてくれる方に出会えたのです。困難なときにSOSを出せる場所があったことが生きていく力になりました。世の中には私よりも大変な思いをしている方はたくさんいらっしゃいます。だからこそ、同じように苦しむ人々がSOSを出せる先をいっぱいつくって、孤立しない社会の実現に貢献したいという思いがあります

ドキュメンタリー映画『それでも私はThoughI'mHisDaughter』より
ドキュメンタリー映画『それでも私はThoughI'mHisDaughter』より
【写真】教団名「アーチャリー」と呼ばれていた頃の松本さんと父・麻原彰晃

 40代になり、この先の人生に麗華さんは何を願っているのか。

以前入国できたカナダは、『テロを起こしたりスパイをする可能性がある』という理由で今はビザが下りない状況です。銀行口座もまだつくれません。こういった国による差別には対処の方法がないのですが、自由に海外へ渡航できるようになって、旅行をしてみたいという夢があります

 映画は好評で、海外の映画祭にも招待され、全国で順次上映されている。苦悩し、打ちのめされても静かに立ち上がってきた麗華さんの姿に勇気をもらえる人も多いはずだ。

取材・文/紀和 静

まつもと・りか 1983年生まれ。父はオウム真理教教祖・麻原彰晃。16歳のときに教団を離れるも、さまざまな差別を受けながら暮らす。文教大学人間科学部臨床心理学科卒。現在は「こころの暖和室 あかつき」で心理カウンセラーとして活動。日本産業カウンセラー協会所属。著書に『止まった時計』(講談社)、『被害者家族と加害者家族 死刑をめぐる対話』(岩波書店)。2025年、ドキュメンタリー映画『それでも私は Though I'm His Daughter』が全国順次公開中。https://wanttobefree.org/