『びんびんシリーズ』秘話

『キャバレー』公開の翌年、『ラジオびんびん物語』(フジテレビ系)で初のドラマ出演を果たす。主演は田原俊彦で、野村は準主演に抜擢された。月9枠の注目ドラマだ。

「でも映画のすごさを知ってしまったから、テレビには抵抗があって。とりあえず1回やってみて、もしダメだったら役者をやめて、サラリーマンになろうかなと考えていました。まだ22歳でした

 映画とドラマの現場はまったく違った。まず撮影のスピード感が違う。ワンカットずつ1つのカメラで撮影していく映画と異なり、テレビは3~4台のカメラを前に、ワンシーンをすべて通して演じていく。

「テストを1回するともう本番でした。まずここでしゃべり、次にここで立ち止まり、次にここに来て料理をしながらセリフをしゃべって、と。そんなテンポの速さについていけなくて、“そんなのできないよ、ちょっと待ってよ!”って、思わず逆ギレしちゃいましたね

‘93年のNHK大河ドラマ『炎立つ』では源義経を演じるなど、演じる役の幅を広げていった野村宏伸
‘93年のNHK大河ドラマ『炎立つ』では源義経を演じるなど、演じる役の幅を広げていった野村宏伸
【写真】「女子高生が待ち伏せ」アイドル的人気を誇った若かりし頃の野村宏伸

 現場は静まり、凍りつく。そこには主演の田原もいた。

“そんなこと言うやついないよ”って、トシさんに言われました。こいつ正直だなって思われたのか、僕のそういうところが面白かったみたいです。すごく可愛がってもらって、それで徳川と榎本のコンビが生まれた。トシさんとは公私の境はなくて、ずっとあんな関係でした

 ドラマは大ヒット。『教師びんびん物語』『教師びんびん物語2』とシリーズ化され、スペシャル版もたびたび制作された。びんびんシリーズの最高視聴率は31・0%で、今となっては考えられない数字だ。映画が低迷し、テレビが活気を呈してきたころでもあった。

 びんびんシリーズの人気の要因は、なんといっても田原演じる徳川と野村演じる榎本の絶妙なコンビによるものだろう。熱血漢でリーダー格の徳川に対し、後輩の榎本はどこか気弱で頼りないキャラクター。実際の野村自身とはかけ離れた印象だ。

複雑な心境でやってました。自分はこんなんじゃないけどな、やりたくないよって心の中で思ったこともありました。まだ若かったしね。それに1つヒットすると、やっぱり似たような役ばかりオファーされてしまう。コマーシャルに出ると、イメージを壊すような役もできなくなって。ちょっと開き直りでやってた感じだったと思います」

 役者としての転機は、'99年の舞台『太陽と月に背いて』。当時33歳で、初舞台にして初主演を務めた。

役者を続けていくためには、やっぱり芝居をもう1回改めて勉強しようと思って、それなら舞台だと考えました。舞台はチームワークで作るのが魅力。一度始まったら最後まで演出家でも止められない。ライブの良さ、演劇の面白さを感じました」

 映画に始まり、テレビ、舞台と活躍の場を広げ、役の幅も広がった。役の大小に限らず、バイプレイヤー的役割もこなすようになる。