きぬた氏の初任給は……

ちなみにきぬた氏が歯科医になった当時、初任給は25万円だったという。
「それでも良かったほう。15万円とか20万円という求人もありましたから。今は初任給が50万円でも来ないですから。まだ右も左もわからない歯医者に50万円払うんですよ。削る機械を握ったこともない人が年収600万円。だけどそれでも来ない。少なくとも60万円あげないと新卒の歯医者は来ないんですよ。いや、60万円でも来にくいか。初任給100万円で呼ぶ歯科医院もザラにありますから」
県内に歯科医が少ない静岡県は、その数を増やそうと、県が全国の歯科医と県内の医療機関をつなぐ“マッチングサイト”を'25年4月よりスタートさせている。
「歯医者が大変で食えなかった時代から比べて考えられないことです。それでまたマズいと思ったのか、今年発表された歯科医師国家試験の合格率が上がりました。60%台が続いていたところいきなり70%に。今後、厚労省は歯医者を増やす方向に転じると思います。でもそれは手遅れで、国は来年の合格率をさらに上げていきなり80%にはできない。徐々に上げていくしかなく、80%などにできるのは10年後とかでしょう。でもそのころには今のご老人の歯医者は引退したり、亡くなったりしているでしょうから歯医者は足りなくなる」
最新の年収ランキングにおいて、歯科医は医師に次いで3位(令和5年分の国税庁『民間給与実態統計調査』より。1位は航空操縦士で月額126万円)。これまでベスト3などには入っていなかったが……。
「歯医者は医師を数年で抜くと思っています。今、医師の国家試験合格率は90%を超えています。どんどん医師の数を増やしている。実際、地方を中心に医師は足りていないと聞きます。だから増やしている。ところが、構造的な問題として医師は保険診療しかできません。“◯◯先生は腕が良いから自費です”というのはできない。だから給料を上げたくても上げられない。自由診療が主な美容外科は別として」
前出のとおり歯科医は自由診療の種類が医師より多い。
「歯科医の年収は上がっていることは事実としてある。これから“安牌”として生きていくなら、歯科開業医でなくとも、歯科勤務医もありだと思います。求人の金額がめちゃくちゃ上がっているのでリスクなくいける。ものすごく簡単に伝えると“人が少ないから、あなたは稼げるよ”ということです(笑)」
医療系大学は、その学費の高さがネックになるが……。
「今、私立の歯学部は入学金と授業料合わせて2000万円を切っているところもあります。投資として絶対にアリだし、銀行などから貸してもらえるなら絶対行ったほうがいいし、行かせたほうがいい。オッサン歯医者の予想ですけど、今後10年いや20年、厚労省が歯科医師国家試験の合格率を下げることはない。今の70%からさらに上がって90%くらいまでいくはず。そういう意味でも安心だと思う。なにしろ高齢者が増えすぎちゃって足りない。今後はさらに足りなくなるので」
今から“稼げる”チャンスになりつつあり、ここからある程度はチャンスが続く?
「全体の歯医者の数を増やした結果、供給が多くなったら当然、一部の歯医者は難しい状況になるでしょう。しかし、今後20年は見通せますので、その間に自分なりの“何か”を見つけてくださいって感じですね。“看板”でもなんでもいいんで(笑)」
顔を全面に晒した看板になるのはさすがに抵抗があるかもしれないが、これから将来を見据える若者やその親は、歯科医になるのを検討するのもアリ?
「声を大にして若い人に言いたいんですけど、ドラマなどで医者が主人公になることはいっぱいあります。しかし歯医者はまったく題材にならない。ドラマの歯科医なんて何十年も前の福山雅治くらい。それもギャグみたいなキャラだった。医者にはカッコいいイメージがあるかもしれないですが、歯医者にはない。
でもそういうことに惑わされないでほしい。若いころは金ではないステータスややりがいを考えちゃうかもしれない。でも日本なんて東大に行こうが医者になろうが何になろうが、ただのオジサン、オバサンになるだけ。誰もイーロン・マスクとかビル・ゲイツになれない国だから。イノベーションなんて起こせない国だから。だからそんなくだらない小さいことに惑わされずに、ラクしてやれることをやろうよと。だから歯学部オススメですよ」
ちなみにきぬた歯科勤務の歯科医師の'24年の平均年収は3000万円近いという。