当時のことを、50年来の盟友で、共に漫才ブームの立役者だったB&Bの島田洋七はこう証言する。

「芸は自分のものだから」

「ずいぶん悩んでたよ。特にまさとは、ものすごいまじめやからね(笑)。昔のスタイルをどうにか変えようとしているように俺には見えたの。だから、元のままでええやん、無理に変えんでええやん、って言ったんよ。

 だって、ザ・ぼんちってすごい個性を持ってるでしょ。昔と同じことやってる、って言う人もおるかもわからん。でも人は関係ないよ。芸は自分のものだから

今年の『THESECOND』の予選(ノックアウトステージ32→16)で、モグライダーに勝利した夜。ふたりの孫と同年代の、20代のマネージャーとともに仲良くラーメン屋で祝杯
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【写真】まるでアイドルのコンサート! 大ブレイクを果たした漫才ブーム時代

 迷っていた時期にたまたまついた、20代の女性マネージャーの存在も大きかった。ザ・ぼんちのふたりとは父娘ほども年の差があるが、まったく臆せず「とにかく稽古です。

 月曜と木曜、13時から15時まで。会議室借りますから必ずやってください」と、ふたりの尻を叩いたのだ。

舞台でしくじると、バシッと言ってくれるのもありがたかった。周りから、また兄さん怒られてるやん、なんて言われてね(笑)」(おさむ)

彼女との出会いには本当に感謝してますよ」(まさと)

 稽古を続けるうち、50代のザ・ぼんちらしいスタイルができあがってきた。

ただ笑いをとればいいわけじゃないんです。僕は昔から、漫才には品はもちろん、優しさとか可愛げとか、そういうものがなきゃダメだと思ってる。そこだけはずっと変わりません」(まさと)

やっぱりあったかい漫才が好きですね。他人をクサすのではなく、自分を悪く言って相棒にツッコんでもらうほうがずっといい」(おさむ)

 まさとはこのころ、元相方の亀山さんの突然の死というつらい出来事に直面する。悲しみを乗り越え、'12年にはなんばグランド花月での還暦ライブを大成功させた。そして気づけばいつの間にか、再結成後の歴史のほうが長くなっていた─。

おかげさまでいろんな劇場に出させてもらって。そこで若い後輩らの漫才を見ているうち、僕らも新しい挑戦をしたくなったんです」(まさと)

 70歳を過ぎての『THE SECOND』への参戦。初エントリーの昨年度は、惜しくも決勝進出には至らなかった。今年度の予選(ノックアウトステージ16→8)の対戦相手はくしくも、昨年勝ちを譲ったハンジロウ。

 このとき、大きなハプニングが起こる。MCのノンスタイル・石田明や、ほかの出演者らを感嘆させる圧巻の漫才を披露したにもかかわらず、ネタ時間が既定の6分を超え、減点されてしまったのだ。

 しかし、ハンジロウにもともと大きな点差でリードしていたため、結局勝ち進んだのはザ・ぼんちだった。それで結果オーライでもいいはずだが、まさとは違った。

減点の原因は僕の進行ミスでもある。悔しいし、相方にも申し訳ないし、帰りに品川駅のトイレで泣きました

 勝利の喜びより、ルール内でネタができなかった歯がゆさのほうが強かったというのだ。どれだけの覚悟を持ってふたりがこの大会に臨んだか、その意気込みがわかるだろう。

 5年前からザ・ぼんちのマネージャーを務める竹内碩秀さんは、ふたりのことを「とにかく漫才への情熱や向上心に満ちあふれている」と語る。

台本を担当しているまさとさんはコントや落語も勉強されていて、参考になると思えば後輩芸人の公演もこっそり見に行くほど。何よりおふたりとも、若手の意見も素直に吸収するし、決して否定から入らないんです。ベテランでありながら進化し続ける理由が、そこにあると思います

 その後の決勝大会での活躍と反響は、冒頭でも述べたとおり。B&Bの島田洋七は、テレビでその様子を見ていた。

子どもも若い人もお年寄りもみんなが笑える、それがふたりの強みだと改めて思ったね。今の若い漫才師たち、賢くてすごいなぁと思うけど、ネタが難しすぎて笑いが起こるまでに一瞬考えさせられたりするでしょ。それに、ザ・ぼんちほどの個性がない。ふたりの漫才は、今の若い人にはむしろ新鮮でしょうね

 現在は、55周年記念の単独ライブに向けて準備を重ねる日々。年明けには初の台湾単独公演も控えている。

目標はもっと先にあるんです。その光を追っていかないと

 と、それまでの柔和な表情を一変させたおさむ。なんとこのふたり、44年前に獲った上方漫才大賞をもう一度狙うつもりなのだ。

「もちろん、獲ろうと思って獲れるような賞じゃない。でもこの勢いのまま、来年も突っ走ります

 と意気込むまさとの目も、いたって本気だ。

大先輩の夢路いとし・喜味こいし先生も、年齢を重ねても新ネタをやってました。それを見てきたから、僕らも頑張らなと思えるんです。後輩たちに偉そうにアドバイスできることなんて何もないけど、われわれの背中を見て何かを感じてくれたら、それだけでありがたいですね」(おさむ)

 決して守りに入ることなく、挑戦し続ける者こそが真のレジェンド─。ふたりの生き方が、それを教えてくれる。

取材・文/植木淳子

うえき・じゅんこ ライター、編集者。大学卒業後、出版社にて女性週刊誌、男性週刊誌、総合誌などの編集者を経てフリーランスに。人物インタビュー、ライフスタイルやエンタメ、子育て・教育情報などの取材・執筆を手がける。