そのひとりが、名古屋で社会福祉法人「ふれ愛名古屋」を主宰し、重症心身障害児のためのデイサービス・ネットワークを設立した故・鈴木由夫氏だ。

重度心身障害の子どもたちには“大人の世界”が足りていない

 彼の“なければ創ればいい”との言葉に押されるように、2017年、理恵さんは重症児向けのデイサービス事業を行うNPO法人「みらい予想図」を立ち上げた。

 現在、音十愛さんは20歳。リハビリのかいもあり、11歳ごろから歩けるようになり、今は10メートルほど歩くことができる。人と触れ合うのが好きで、名前を覚えるのも得意だ。摂食訓練によって口から食べることも可能になり、特に麺類が好物だという。

母の理恵さんと二人三脚で講演活動。地域の小学校に訪問して知ってもらう活動を現在も継続中  写真提供/山崎理恵さん
母の理恵さんと二人三脚で講演活動。地域の小学校に訪問して知ってもらう活動を現在も継続中  写真提供/山崎理恵さん
【写真】嬉しそう!初めてのお化粧をして成人式に参加した音十愛さん

 理恵さんの主宰する事業所に週2日、他の事業所に4日通い、スタッフや仲間と触れ合いながら、社会性を育む訓練を積む日々を送っている。

 それでも理恵さんは、「重度心身障害の子どもたちには圧倒的に“大人の世界”が足りていない」と感じている。いつか来る“親がいなくなった日”を見据え、「自立支援のための小規模なグループホームや生活コミュニティーをつくりたいと考えています。いえ、つくらないと死ねないですから」と笑う。

 困難を抱えても、助けを求めれば誰かが手を差し伸べてくれる社会へ─。理恵さんは、これまで支えてくれた多くの人への感謝を胸に、同じような困難を抱える人のために道を切り開いていく。音十愛さんとともに目指す社会は、夢ではなく、希望であることを教えてくれている。

取材・文/小林賢恵

今年1月、高知市主催の成人式に参加。初めてお化粧をした2005年に生まれた音十愛さんと母の理恵さん。出産直後、医師から両目がないと告知された。ほかにも知的障害、口唇口蓋裂、両手首・足先の先天性異常などの障害がある母の理恵さんと二人三脚で講演活動。地域の小学校に訪問して知ってもらう活動を現在も継続中3歳のころ。入退院の合間に発達の訓練に通っていた。音の出る教材に耳を傾けている様子