コロナ禍で挑戦した小説で描いた世界とは
『レオニー』のあと2本のドキュメンタリー映画を発表したころ、世の中はコロナ禍に入ってしまう。年齢も70代半ばになり、老後への不安と孤独が募っていたという。
「マンションで孤独死をしている私を誰が見つけてくれるだろうと思ったり……。それが未来像でしたね。これからどうやって生きていこうかと考えていました」
そんなとき、旧知の社会学者・上野千鶴子さんから、「小説を書いたら? 映画のようにお金集めをしなくていいでしょ?」とすすめられた。
かつてライターだった彼女も、小説となるとまったくの未経験。しかしここでもリミッターを解除して果敢に執筆に取りかかった。
まずはテーマだ。映画では撮れないものをと考えて、「高齢者のセクシュアリティ」が閃いた。
「私の直感ではあるんだけど、これまで高齢者のセクシュアリティを正面から扱った小説は、ほとんどなかったような気がしたんです」
練習のつもりで書き始めて、小説の定石などはあまり考えず進めていくうち書き上がった。
「テーマがテーマだけに友達や家族にも読ませられないと思っていました。でも最後まで書いたんだしと思って、上野さんがつないでくれた中央公論新社の編集者に読んでもらうことにしたんです」
原稿を読んだのは、中央公論新社で当時文芸編集部長だった打田いづみさん。一読して、面白いと思ったという。
「私が『婦人公論』の編集者だったころ、工藤美代子さんが更年期前後の女性たちの性を描いた『快楽』(けらく)が大変な話題を呼びました。読者の投稿などを読んでも、いくつになっても性への欲求は終わらないのだということを知っていたので、これは出版できると思ったんです。念のため30代の女性編集者にも読んでもらったら、面白いと。それで決まりました」
出版決定を受けて、松井さんはうれしさの一方で「“えっ、どうしよう”と思っちゃった(笑)」と言う。
でも世間の反応を見たい気にもなり、出版社の判断に従った。意外なことに発売されると、順調に版を重ねた。
「特に日本は、年をとると、もう“男”でなくなった、“女”でなくなったと思わされる社会です。でも内心では、もう一度恋をしたいと思っている。ときめきを求めているんですね。生命力を維持するのって、ときめきだと思う」












