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ー 昆虫食ブームの到来
イングリッシュマフィンのコオロギハンバーガー 昆虫食写真/内山昭一さん提供

 コオロギ、イナゴ、蚕……昆虫食が脚光を浴びている。高タンパクで良質な脂肪(不飽和脂肪酸)、ミネラルが豊富な高栄養食として注目されているのだ。

昆虫食ブームの到来

 国連食糧農業機関(FAO)は食糧危機の解決策として昆虫食を推奨し、世界経済フォーラム(WEF)も気候変動を遅らせることができる代替タンパク源として報告書を発表している。実は世界で20億人が1900種以上の昆虫を食べており、決して珍しいものではない。

 昆虫食の最大の魅力は、その飼育効率の良さだ。肉1キロを作るのに牛は10キロの餌が必要だが、コオロギはわずか2キロで済む。食べられる部分も牛の40%に対し、コオロギは80%。狭い土地と少量の水で飼育でき、メタンガスや二酸化炭素などの温室効果ガスもほとんど発生しない。環境負荷が極めて低い、まさに未来の食材なのである。

 昆虫料理研究家でNPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長の内山昭一さんは、イナゴやハチノコ、蚕のさなぎなど昆虫食が伝統食として根づく長野県出身だ。1999年、河原で捕って揚げたトノサマバッタのおいしさに衝撃を受け、そこから昆虫食研究を始めた。

 内山さんによれば、「ハチノコの味は鰻とほぼ一緒。形成すれば蒲焼きの代替食になりえます。コオロギは高タンパクでミネラルも豊富。粉末なら形も気にならず、強いにおいや独特の味もない。効率的に筋肉をつけたい人や、シニア世代のタンパク質補給にぜひ考えてほしい」と言う。

 昆虫食に興味を持つのは若い人が多く、味への好奇心と、未来の食糧事情への危機感が背景にあるようだ。植食性の昆虫の糞は消化・発酵された物質のため安全性は高いといい、「毛虫の糞を使ったお茶は香ばしくておいしい。カブトムシの飼育が趣味の小学生が開発したカブトムシの糞を利用したせんべいも、とてもおいしいですよ」(内山さん)

 一方で、課題もある。2023年、徳島県の高校でコオロギ粉末を使った給食を提供したところ「虫を食べさせるなんて」というクレーム電話が殺到した。

 医学博士で「さかえクリニック」院長の末武信宏先生が、医学的な見地から語る。

「昆虫食は高タンパクで、鉄分やビタミンB群などの栄養素も含まれており、『未来のタンパク質』として注目されています。筋肉づくりや健康維持という点では理論的にメリットはありますが、医学的には注意点もあります」

 昆虫にはエビやカニと共通する成分が含まれているため、甲殻類アレルギーのある人ではアレルギー反応を起こす可能性も。外骨格に含まれるキチンは腸内環境を整える効果があるが、胃腸が弱い人は腹部の不快感や下痢を招くこともあるので、食べすぎには注意が必要だ。

「現時点では長期摂取の安全性に関する十分な医学データがそろっていないため、体質に合うかを確認しながら取り入れることが大切です」(末武先生)

 安全に楽しむためには、有毒昆虫を避け、必ず加熱すること。体調が悪いときは食べないこと。可能性の大きい昆虫食を、食糧の一つとして有効活用してもいいのではないだろうか。