慣れない事務仕事に悪戦苦闘した転職1年目

 そんな折、取材で関わりのあった国立成育医療研究センターで「もみじの家」の立ち上げ計画が進んでいることを知る。ハウスマネージャーの公募を耳にし、内多さんは一歩を踏み出す決意を固めた。

「ちょうど住宅ローンの返済も終わり、下の子どもも大学生になっていました。本当にいろいろなタイミングが重なったんだと思います」

 公募に応募し、見事採用。翌4月には「もみじの家」のハウスマネージャーとして新たな人生をスタートさせた。

「知らなかったからこそ、飛び込めた部分もあると思います。広報などアナウンサー時代のスキルを生かせる業務がある一方で、ハウスマネージャーの仕事のメインは事務全般。

 パソコンは使っていましたが、エクセルやパワーポイントなどはほとんど未経験でした。最初の1年は、誰に何を聞けばいいのかもわからなかった。体重が落ち、冗談で“事務ダイエット”なんて言っていましたね」

NHKを退職後、2016年に医療的ケア児と家族のための短期入所施設「もみじの家」にハウスマネージャーとして転職した内多勝康さん
NHKを退職後、2016年に医療的ケア児と家族のための短期入所施設「もみじの家」にハウスマネージャーとして転職した内多勝康さん
【写真】寝たままでも参加できる「ウルトラ・ユニバーサル野球」大会

 慣れぬ仕事に四苦八苦しつつも、現場に立ったからこそ見えてくる現実があった。

「ずっとケアを担ってきたお母さんにお茶をお出しすると『こんなふうにゆっくりお茶を飲めるのは久しぶりです』とおっしゃるんです。家族はここまで追い込まれているのか……。私は胸を突かれました。状況を変えていかなければと強く思いました

 また、命をつなぐことに精いっぱいで、子どもが遊びや学びの機会を十分に得られていない現実も知った。

「『もみじの家』には看護師だけでなく保育士もおり、遊びや学びのプログラムがあります。それが子どもたちの刺激になる。家族からは『こんな笑顔を見たことがない』という声も聞かれました」

 子どもたちが子どもらしく過ごし、他者と交流する機会が圧倒的に少ないという課題に向き合う中で、内多さんは新時代の野球「ユニバーサル野球」と出合った。

「もともと堀江車輌電装株式会社の中村哲郎さんという方が、障害のある人が野球を楽しめるようにと、実物の20分の1サイズの野球場を発明したのが始まりでした。

 そこに視線入力アプリ『EyeMoT(アイモット)』を開発した岩手県立大学の伊藤史人さんの協力を得て、視線入力や遠隔操作を導入。打つタイミングの信号を球場の装置が受信し、バットが回転する仕組みです」