命を削る生き方から自分を大切にする生き方へ

 現在は抗がん剤治療中で、記憶力や集中力が低下する症状(ケモブレインと呼ばれる症状)や、血管炎、下痢や便秘を繰り返すなど、さまざまな副作用に悩まされているという。

「ほかにも手足の痺れやかゆみで転げ回るほどのときがあったり、倦怠感もひどいです。身体が鉛のように重く、ベッドに寝転がるのですら、地面に叩きつけられているような感じなんですよ。抗がん剤の副作用といえば吐き気や嘔吐がありますが、最近はそれを軽減する点滴や飲み薬もあります。ですが今度はその薬の副作用で、身体はしんどいのに頭だけが冴えて。数日間全く眠れなかったのはつらかったです」

 抗がん剤の副作用として全身の脱毛もよく知られるが、頭皮冷却という施術が効果を発揮した。この施術は頭皮への血流を抑制することで、抗がん剤が毛根に届くのを防ぐもの。通常は抗がん剤治療開始から2週間ほどで脱毛症状が現れることが多いが、くろさわさんは3か月後も頭髪が残っている。

「自由診療で1回2万円もかかりますし、あまり効果が出ない方も多いそうなので安易にすすめられませんが、私には合っていました。眉毛やまつげなど全身の毛は抜けましたが、頭髪だけは残っていて。死ぬことに比べたら髪の毛なんてどうでもいいと思っていたけれど、いざこうなると、やっぱりなくしたくないものなんだなって思いました」

 病に立ち向かうことで、人生観は大きく変化した。

「今までは、命を削って頑張り続けるのが、本気で生きることだと思ってきました。でも、命は削るものなんかじゃない。自分を大切にすることで、届けられる歌があるのだと、乳がんになってやっとわかったんです。いつかこの経験を楽曲にして、シンガー・ソングライターとして人生を歩み続けたい。そのためにも病気に向き合い、乗り越えることが、今の私の使命です」

 そんな思いは、病に苦しむ人へのエールとなった。

「がんを宣告されると、この世界にひとり取り残されたような孤独感を味わうと思うんです。でも決してひとりじゃないと、がんを公表して気づきました。無理に前向きにならなくてもいい。自分のペースで、自分らしい生き方で、自分を大切にしてほしい。私自身も今まさに、そうやって生き直している途中なんです」

くろさわかなさん 神奈川県横浜市出身。鳥取を拠点に活動するシンガー・ソングライター。2025年11月にオリジナルアルバム『ASingerSongWriter』でメジャーデビュー。
くろさわかなさん 神奈川県横浜市出身。鳥取を拠点に活動するシンガー・ソングライター。2025年11月にオリジナルアルバム『ASingerSongWriter』でメジャーデビュー。
【写真】デビュー直後に乳がん判明…抗がん剤治療中のくろさわさん
くろさわ かなさん 神奈川県横浜市出身。鳥取を拠点に活動するシンガー・ソングライター。2025年11月にオリジナルアルバム『A Singer Song Writer』でメジャーデビュー。

取材・文/植田沙羅