三話目の「夢見る家族」は「胡蝶」の続編ともいえる作品だ。

「5編の物語の真ん中なので、この話が蝶番となって、あとの2編と前の2編とが呼応し合っているような構成にしたいと思ったんです」

 主人公の夜音次の家では毎朝、見た夢の内容を母親に報告する習慣がある。母親はそれをノートに記録し、災害などのニュースが報道されるたびにノートを見返しては、息子が予知夢を見ることを確信している。一方、息子が次のように話す場面がある。

一番楽しい瞬間は

《地震も竜巻やハリケーンも、地球のどっかでしょっちゅう起こってる》

「夢と現実はいくらでもこじつけられるんですよね。お母さんは子どもの予知夢の力を信じていますが、そうした力が本当にあるかどうかはわかりません。ここにも信じることの危うさが潜んでいるように感じます」

 四話目の「金の糸」では主人公の六実が高校の同級生のゴンゾーとスリーピースバンドを組み、人気を博していく。

「もともとバンドの音楽が好きで、いつかバンドの話を書いてみたいと思っていたんです。いくつかの3人編成のバンドのことを思い浮かべながら、この話を書きました」

 ルックスにも音楽の才能にも恵まれたゴンゾーは、カリスマを具現化した存在だ。

「ゴンゾーはいいやつで、好きなキャラクターです。ただ、作中の法則からすると、カリスマなのは六実です。六実にはある能力があるのですが、本人はそのことに気づいていないんですよね」

 六実は最終話の「夢の子ども」にも登場し、5つの物語のつながりが明らかになる。

「一話目から最終話を書くまでに10年ほどの間があるので、忘れてしまった部分もあるのですが、一話目を書いている時点で、最終話の内容がなんとなく見えていたんです。ひとつの短編としても楽しんでいただきつつ、一冊にまとまったときに発見がある物語になるよう、塩梅を探りながら書いていました」

 5編の中でも、「夢見る家族」と「金の糸」には特に思い入れがあるそうだ。

「どのお話も楽しく書いていましたが、この2編の最後のほうは主人公と一体化しているような境地になれて最高でした。こういう感覚になれるときが、小説を書いていて一番楽しい瞬間かもしれません」

 本書は、三浦さんにとって久しぶりの短編集となる。

「バンドを登場させたり、小さな奇跡を起こしたり、夢の中で妊娠や出産をしたりと、すべてが私にとっての挑戦でした。『夜の恩寵』を読んで、私の成長を感じていただけたらうれしいです」

最近の三浦さん

「最近、過去最高体重を叩き出してしまいまして……。一日の歩数が124歩、みたいな生活が続いていたので、一日5000歩を目標に歩くことにしました。あらゆる人に追い越されながら、いつもは自転車やバスを使う道を歩いています。『歩いたからいいかな』と、つい食べすぎてしまったりもするのですが、がんばって続けたいです」

三浦しをん著『夜の恩寵』(集英社)税込み2145円
【写真】すべてが挑戦の物語! 5編の短編を収められた三浦さんの最新作

取材・文/熊谷あづさ

三浦しをん(みうら・しをん)/1976年、東京都生まれ。2000年に『格闘する者に○』でデビュー。’06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、’12年『舟を編む』で本屋大賞を受賞。『あの家に暮らす四人の女』(織田作之助賞)、『ののはな通信』(島清恋愛文学賞・河合隼雄物語賞)、『愛なき世界』(日本植物学会賞特別賞)、『光』『ゆびさきに魔法』など著書多数。『のっけから失礼します』『しんがりで寝ています』などのエッセイも多い。