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ー 現代の“生きる推進力”を深掘りできるのでは
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ー その時代を象徴する本として残り続けてくれたら

 2010年にデビュー作『桐島、部活やめるってよ』を上梓して以来、直木賞受賞作『何者』、映画化もされた『正欲』、2025年本屋大賞にノミネートされた『生殖記』など、次々と話題作を発表し続けている朝井リョウさん。『イン・ザ・メガチャーチ』は2026年本屋大賞受賞作で、ファンダム(熱心なファンの集団)経済を描いた作品だ。

現代の“生きる推進力”を深掘りできるのでは

「この数年、“生きる推進力”というものをテーマにして、作品を書いています。この作品を立ち上げる過程で、社会全体では経済的な厳しさが強まっている中、日本人1人あたりの投げ銭の額が世界的に見てもかなり上位であることを知りました。

 全体的には目減りしていると感じられる“行動力”や“支出”といったものが、ファンダム経済の世界では膨張している。この場を舞台にすれば、現代の“生きる推進力”を深掘りできるのではないかと考えました

 レコード会社勤務の久保田慶彦、留学を志望して入った大学で自信を削られる大学生の武藤澄香、若手俳優を熱烈に応援する30代派遣社員の隅川絢子。この3人の視点で、物語は進んでいく。

どういう場所にライトを設置すれば、書きたいテーマを立体的に照らし出せるか。それを考えながら、物語の視点人物を決めています。ファンダム経済に関するフィクションはこの数年でかなり出てきましたが、その仕組みを構築する側の視点の作品は少ないと感じていました。今作ではその視点を中心に据えたい気持ちがあり、久保田の人物像をつくっていきました

 2人目の視点人物・澄香は男性アイドルグループにのめり込み、ファンダムの一員となっていく。

2015年に上梓した『武道館』は女性アイドルの物語で、ファンになるきっかけとして恋愛感情をピックアップしました。今作を執筆するうえで私の中でしっくりきたのは、恋愛感情というよりも、自他の境界線が薄い人物が対象にどんどんのめり込んでいく、という展開でした。さまざまな情報を自分事として捉えがちな人物に、ファンダム経済の内部に入っていく役割を背負ってもらいました

 読者がいちばん、共感しそうなのは3人目の視点人物・隅川絢子かもしれない。手取り総額17万7459円のうち家賃6万2000円、水道光熱費2万4312円、食費2万4410円と支出の項目が続き、推し活に使える金額は1万8426円と算出される場面がある。

今作では、経済的な面が具体的に描かれていないと説得力に欠けるのではないかと思い、編集担当の方々に情報収集を手伝っていただきました。自分の財産額をぼんやりとしか把握していない久保田と対比させる狙いもあり、隅川のシーンでは、1円単位で収支を計算している描写をくどくなるほど入れました

 細やかに描かれる視点人物の心情やエピソードを通して、自分の何げない言動の裏側にある意味に、気づかされる場面が多々ある。例えば、新しい男性アイドルグループのプロモーションチームの一員となった久保田が、アイドルの垣花道哉と面談をするシーンで、道哉は母親の「雑談」に関する話題から次のようなセリフを話す。

《色んな意味で、生きていくうえで僕たちとは違うレベルでの情報共有が必要だったんだと思います。情報共有ってつまり助け合いじゃないですか。そういう連帯が昔から日常的だったから母は今でも友達がいっぱいいるのかなとか、そんなふうにも思うんです》

私は学生時代から男性より女性の友人が多く、どちらかというと女性とのコミュニケーションのほうがなじむんですね。学校をはじめとするさまざまな集団を無事に通過するためには、いろいろな情報交換が必要だったと思います