米ぬか靴下作り、鍋煮込みからスタート!?

 そんな日常の中で、鈴木さんはあるアイデアをずっと温めていた。米ぬかを使った靴下である。思いついたのは、25歳のときだ。

「小学生のころ、米ぬかを布で包んだぬか袋を母親が作ってくれたんです。それで廊下を拭くと黒光りするほどツルツルになったんですよ。あれが忘れられなくてね」

 大阪の糸の商社マンに「米ぬかで靴下を作ったらどうやろ?」と感想を求めたことがあった。しかし相手は20代、ぬかを触ったことさえなく、“ふーん”と関心がない様子だった。

 精米をするたび、米ぬか靴下を作る方法はないかと幾度となく考えるも、打開策が見つからないまま20年近くが過ぎたという。

 そして45歳のとき、ヒントとなるシーンを目にする。

「公園で遊ぶ子どもの洋服に土や泥が入り込んで汚れる様子を見てね。靴下と米ぬかを鍋で煮てみてはどうだろうと思い立ったんですよ」

かつては苦手だった営業先でのトークも、今ではお手のもの。米ぬか繊維について説明する鈴木和夫さんの姿からは、商品への自信がうかがえた 撮影/伊藤和幸
かつては苦手だった営業先でのトークも、今ではお手のもの。米ぬか繊維について説明する鈴木和夫さんの姿からは、商品への自信がうかがえた 撮影/伊藤和幸
【写真】「締め付けない、きつくない」保湿作用もある『米ぬか靴下』

 善は急げ。鈴木さんは家に帰るやいなや台所に立ち、無心で靴下を煮込んでいた。学校帰りの長女・みどりさんは父のその姿を見て絶句した。

「何やってんの!?」

「今日の晩ごはんや(笑)」

 みどりさんは、衝撃の光景だったと笑う。

「私、結構信じてしまうタイプなので、お父さん、大丈夫かなと本気で思いましたね」

 ぬか色に染め上がった靴下を干してみた。ところが乾かして叩くと、ぬかは靴下に定着することなく、あっけなく風とともに飛んでしまった。

 そんな状況を好転させる運命の出会いが訪れる。

 地元の商工会を通じて紹介してもらった和歌山県工業技術センターの谷口久次さんだ。

「長年、米ぬかを研究してきた方で、厳しい研究者だと聞いてましたが、臆せず米ぬか靴下の構想をぶつけてみたら、“面白い!”と言ってくださったんです」

米ぬか繊維のレーヨンには、無数の小さな穴があいており、そこに米ぬか成分が入り込むという 撮影/伊藤和幸
米ぬか繊維のレーヨンには、無数の小さな穴があいており、そこに米ぬか成分が入り込むという 撮影/伊藤和幸

 谷口さんは米ぬか成分の抽出方法を教えてくれた。

(1)フライパンで米ぬかを中火で3分炒る (2)アルコール度数が35度以上の液体に入れ、上澄み液を取り出す (3)その中に靴下を入れる (4)繊維製品にぬか成分が定着する素材を塗り込む

 そして大切な助言も授けてくれた。

「鈴木君、最後には絶対にいいものができるよ。ただし、この研究は、絶対に一人で進めなさい。会社で会議をすると、無難な結論に落としどころを見つけるものだから」

 一人っきりの作業が始まった。指示どおりに米ぬかを抽出すると、失敗を重ねながらも、なんとか自家製米ぬか靴下が産声を上げた。

 さっそく周囲に声をかけ、靴下をはいてもらい、69人がアンケートに答えてくれた。感想を読むと、「足がすべすべするようになった」という声がある一方で、「洗濯したら、効果が落ちる」という反応が多数あった。

 そこで専門の紡績会社に米ぬか繊維の製造を依頼。米ぬか靴下の面白さを理解してくれ、試作がスタートする。何度も作り直しながら、2年がかりで完成させた。2006年のことだ。

「1足の靴下にはおにぎり1個分のぬか成分が含まれています。米ぬか繊維のレーヨンには、無数の小さい穴があいていて、そこに米ぬか成分が入るんです」

 鈴木さんは、試作の経過を恩師である谷口さんに逐一報告し、交流を続けた。