営業での挫折|ゴミ箱に頭を突っ込み……

 念願の商品を手に、いざ売り込みを始めるも、七転八倒の苦労を経験する。

 米ぬか繊維を用いた渾身の黒のハイソックスと、ワープロで書いた解説文に写真を貼りつけた手作り資料をカバンに入れて東京へ。

 都内の生活雑貨店を中心に飛び込み営業をした。

「話ぐらい聞いてくれるだろう」と甘く考えていた。

 しかし渋谷、新宿、池袋、北千住、豊洲、川崎と回る先々で厳しい洗礼を受ける。

「アポイントはとられてますか?」と聞かれるも、“アポイント”の意味すらわからず、日を改めるよう告げられて門前払い。

 では営業トークはというと、妻の喜子さんによれば、

「主人はもともと口下手で、それまでは内職のおばさんとしかしゃべったことがないぐらいでしたから(笑)」

 というほどだから、結果は推して知るべし。

「話を聞いてくれても、『長い説明はいらないから、ワンフレーズで言ってくれます?』と言われ、サンプルの靴下を投げ返すようにした人もいました。30分ほど説明したのにひと言も発しないで、何しに来たんですかと言わんばかりにずっと上から目線の担当者もいました、圧迫面接みたいに。1時間の商談が終わって、吐き気と腹痛、めまいもして歩けなくなりました」

東京で開催された「IKAE2006国際ニット技術展」に夫婦で参加。両親も様子を見に駆けつけた
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【写真】「締め付けない、きつくない」保湿作用もある『米ぬか靴下』

 断続的に吐き気が襲ってくるため、有楽町駅のトイレに駆け込んだり、トイレに間に合わず駅のホームでゴミ箱に頭を突っ込んだりする状態だったという。

 当時、夫からの電話を受けた喜子さんは、「東京に泊まってください」と伝えたが、宿泊先を探す元気さえ枯渇し、その日のうちに奈良へ。ズタズタの営業デビューだった。

 年が明けて'07年1月には、東急ハンズ(現・ハンズ)三宮店(兵庫県)の特設売り場に夫婦二人で立った。喜子さんが回想する。

「二人とも初めての経験ですから呼び込みをする勇気はなくて、興味を持って靴下を見に来てくれた方にだけ話す程度でした。すると、女性の方が1200円のソックスを買ってくださって、そのときは本当にうれしかったです。売ることの難しさとありがたさを知る貴重な体験でした」

 普段は厳しいことを口にする勇一社長だが、親族と売り場を訪れ、激励し、靴下を買って帰ったという。