思いやりを大切にする社長の新たな挑戦!
なかなか日の目を見なかった米ぬか靴下。反対されたり、心配されたりしながらも、従業員に見守られたのは、鈴木さんの従業員への「思いやり」があったからだ。従業員に話を聞くと、次から次へと「思いやり」エピソードが出てきた。
例えば、大きな出荷が終わったときは、紅白まんじゅうなどが振る舞われるという。前出の井上さんはこんな逸話を披露する。
「台風が近づいて、翌日の出勤が危険だと思ったら、休業にするんです。自転車通勤の従業員がいて、帰宅時間に雷が鳴れば、社長が自転車を車の荷台に積んで門で待ち構えてて、“乗って!”って(笑)」
「家族に信頼、家族に笑顔」は鈴木靴下の哲学だが、従業員を家族のように思うからこそ、自社ブランドに邁進する社長を見守る余裕が生まれたのだろう。
'23年には新たな展開があった。みどりさんを部長とする「米ぬか事業部」を立ち上げ、本社のすぐ近くの田んぼに囲まれた場所に、米ぬか靴下の直営店もオープン。売り上げはECサイトを中心に伸びており、年商の3割近くを米ぬか繊維製品が占めるまでになった。
さらに今年4月、大きなニュースが飛び込んできた。
「うちが開発した米ぬか靴下には、保湿作用があることが専門機関による保湿性試験で実証されたんです。空気も湿度も通す生地の状態では、これまで保湿は難しいというのが常識だったんですが、画期的な結果だと第一線の研究者も評価してくれています」
試験をすすめたのは、成分が皮膚を通ってどう浸透するかを研究する第一人者である城西大学の杉林堅次先生(特命教授)だった。
「杉林先生に背中を押されたものの、かなりハードルの高い試験で躊躇したんです。でも挑戦したら、結果は素晴らしく、これがあれば、自信を持って商品をおすすめできますし、営業するときも武器になるはず。20年前、東京の営業で七転八倒した苦労が報われて本当にうれしい。届いた試験証明書は、宝物のようです」
この試験結果は業界でも話題になっており、今後、鈴木靴下がジャンプアップする大きな材料になる。
それも20年以上の長い道のりでも、諦めず、粘り強く開発を進めてきた賜物だ。その強さの秘訣を聞くと、鈴木さんは少し考えて、二つを挙げた。
一つは、親から叩き込まれた「初志貫徹」の精神。勇一さんの口癖は「やることと貫くということは違う」だった。やり始めたら貫徹せよと、ということだ。
もう一つは、米ぬか成分の抽出法を教えてくれた研究者谷口さんの言葉、〈鈴木さん、最後はいいのができると思います〉である。
「やめてしまいたいと思った場面は何度もありました。でも、あの厳しい谷口先生が『できる』とおっしゃったんだから、間違いない。この言葉に何度励まされたかわかりません」
苦境に立たされたときに愚痴の一つや二つ言っていたのでは?と聞くと、妻の喜子さんは「いつも前向きで、絶対いけるみたいな感じでした。どんな局面でも“これからがスタート”って言うんです」と振り返る。その裏には鈴木さんのポジティブ思考があった。娘のみどりさんが明かす。
「まず、できると仮定するんです。それから、今できないのは何が足りないからなのかを考える。足りないものを足していくことで“できる”につなげるのが社長の基本的な考え方です」
米ぬか靴下全体の売り上げは約60万足だが、鈴木さんは「まだ何も成し遂げていないに等しい数字だ」と語る。
「これからがスタートなんです。米ぬか繊維の保湿性が証明された資料を手に、世界市場にも挑戦したい」
15年後には年商100億円という目標も掲げる。
鈴木さんは今日も4時台に目を覚まし、会社のデスクに、4時50分には座っているだろう。
「ユニクロ(代表取締役会長)の柳井正さんが5時に起床されるのを知って、自分はそれより早く起きるだけでなく、10分早く仕事場に着いて、勉強するんだと。柳井さんは能力的にズバ抜けた方だとわかっていますけれど、何かで上回れたら、何か一つぐらい抜くことができるのではないかと思っているんです」
10月に68歳を迎える。まだまだ伸び代を感じさせる遅咲き経営者は、ブレイクの予感を漂わせていた。
取材・文/西所正道 撮影/伊藤和幸


















