本好きのふたりが選んだ珠玉の30冊

 ともに岡山県出身で同世代の小説家・小川洋子さんとエッセイスト・平松洋子さん。幼いころから本が大好きだったふたりの“洋子さん”が、心に残る大事な本を持ち寄り、文学と人生について語り尽くした対話集『洋子さんの本棚』。少女時代の思い出から思春期の葛藤、人との出会いや旅立ちまでを存分に語り合っている。

小川 平松さんとゆっくり話すのはこれが初めてでしたが、よく私の小説の書評を書いてくださっていたので、以前から近しい人のように感じていました。

平松 私は小川さんの作品が大好きなので、小川さんとはずっと本を通して対話していたような気がします。だから初めてお会いする気がしなかったですね。

 おふたりが選んだ本は計30冊。『アンネの日記』『シャーロック・ホームズの冒険』など誰もが知る名作から、白洲正子や檀一雄の旅行記、藤沢周平の世話物や内田百閒の短編までが並ぶ。

小川 平松さんが挙げてくださった本は、私が読んだことのないものも多かったのですが、“教えていただいてよかった”と思える体験を何度もできて幸運でした。例えば、深沢七郎さんの『みちのくの人形たち』。これはすごい本でしたねえ。

平松 私は繰り返し読んできた本なのですが、毎回わからなくなるんです。確かに深沢七郎の小説は好きだけれど、なぜとりわけこの1冊に惹かれるのだろうと。だから小説家である小川さんがどう読むのかという興味はすごくありました。

小川 これは主人公が東北の村を旅する話ですが、その行き先が自然と死の世界へとつながっていく。しかも読者を驚かせようというトリックはなくて、静かに一歩一歩進んでいったら、いつの間にかそこへ行き着くという……。小説の冒頭で“もじずり”という花の名前が出てくるんですが、その文字を目にした瞬間から、何かもう怖い(笑い)。

平松 そこで世界がゆがみますよね(笑い)。

 こうして新たな本との出会いがある一方、以前読んだことのある本でも、今回再読したことで思いがけない発見も多かったそう。

小川 例えば、倉橋由美子さんの『暗い旅』は若いころに読んだきりでしたが、この年で読み返して、平松さんと語り合ううちに、これは母性をテーマにした小説ではないかと感じて驚きました。当時は主人公の報われない愛を描いた小説としか理解していなかったのが、今読むと脇役のお母さんに目が行くんですよ。

平松 私も小川さんと話していなければ、『暗い旅』に“主人公が自分の中の母性を否定していく”という一面があることに気づかなかったかもしれません。普段読むときは、本と自分との1対1の関わりですが、ほかの人と本について話していると、いつもとは違う場所からその本にパッと光が当たる。今回はそんな発見がたびたびありました。

平松洋子
ひらまつ・ようこ●1958年、岡山県生まれ。1993年、『とっておきのタイ料理』を刊行。2006年、『買えない味』で第16回Bunkamuraドゥマゴ文学賞、2012年、『野蛮な読書』で第28回講談社エッセイ賞を受賞。 撮影/佐々木みどり