帰国したときは40歳になっていた。まずは自分の生活を立て直さなければならない。貿易実務のキャリアがあり、責任感も強い美香さんは、派遣先の会社に気に入られて正社員に登用されて現在に至る。仕事が落ち着くと気持ちも前向きになり、趣味と婚活を兼ねてワインスクールに通った。よき仲間に恵まれたものの、素敵な男性の大半は既婚者である。年下からは「姉御」と呼ばれ、恋愛をする雰囲気にはならなかった。

恋愛に関しては「おくて」を自認

 行動力のある美香さんだが、恋愛に関しては「おくて」を自認する。箱入り娘かつ女子校育ちであることに加え、美香さんが日本で過ごしていたのは独身男性が今よりも積極的だった時代だ。男性からのアプローチを待つのが基本、という感覚が身についているのだろう。

 あこがれて渡ったアジア某国では、美香さんが恋愛に慎重になる出来事があった。日本人駐在員の男性たちが臆面もなく「女遊び」をするのを目の当たりにしたのだ。

「既婚者でもカラオケ店のお姉さんたちと平気で遊んでいるんです。店内で一緒に歌うだけで済んでいるとは到底思えませんでした。日本から来たお客さんが現地の女性とデートする際の通訳をさせられたこともあります」

 どの程度の「遊び」を許容するかは人によって異なる。しかし、明らかに嫌悪感を抱いている人の前でその手の話をしたり、まして通訳をさせるなどはセクハラ以外の何物でもない。美香さんは男性不信になりかけてしまった。

 恋愛には受け身、遊び人はお断り、すでに40代半ば。お見合いおじさん活動をしている筆者からすると、気が遠くなりそうな条件がそろっているが、美香さんは強運の持ち主だった。2年前、ワイン仲間を通じて知った婚活イベントで孝介さんと出会うことができたのだ。5月に本連載に登場してくれた両角太郎さんが手がける「出会いナイト」である。

「もう若くないので結婚相談所で紹介してもらうのは難しいと判断しました。出会いナイトは、年齢も婚歴も問わないところがすごくいいんです。特に女性は生き生きとして素敵な人ばかりが来ていましたよ。むしろ女性と友だちになりたいと思ってしまいました」

 会には男女それぞれ20人ずつが参加していた。主催者の両角さんからは「異性とは全員と名刺交換して、デートしたい人を5人書いて提出してください」と言われたものの、おくてな美香さんは10人ほどしか名刺交換できなかった。そのうちの1人が孝介さんである。

「男性の中では見た目が一番清潔感があって、誠実そうに見えました。私は工場にかかわる仕事をしていて、彼はメーカーで生産管理の業務を担当しています。仕事の話もしやすかったです」