演じる役者は大変!

 演じる役者にしてみれば、これまでになかった体験に違いない。相川侑輝(ゆうき)ディレクターは、

「役者さんは音声を繰り返し再生して練習します。演技はバッチリなのに音声と口が合っていなくて、テイク20くらい撮り直したときもあります。自分のタイミングで話せないうえに場面転換も早く、息つく暇もないので、役者さんは大変。普通、ドラマだと10分間で100カット弱程度ですが、この番組では倍近くに及ぶこともあります

 音声と役者の口の動きを完全に一致させることにこだわり、臨場感を生み出しているのだ。

「蛇の化身の役を演じた田中要次さんは、セリフとセリフのわずか1秒の間にアドリブで舌をぺロリと出して『蛇感』を表現した。役者のすごみを感じました」

 落語を映像にするなら、何かプラスアルファが欲しかった、と相川ディレクター。

落語家は同時2役はできない。でも、映像ならそれを表現できる。例えば、誰かがしゃべっているときの、ほかの登場人物のリアクションとか、それぞれの位置関係だとか、噺のもつ世界観をより理解するために手助けとなる部分を見せていけたら、と思っています

 同じ演目でも落語家によってイメージが様変わりするように、ただひとつの“正解”があるわけではない。番組も「あくまでイメージ例」と大田プロデューサー。

「昔の町の雰囲気や、“花魁ってこんな人たちなんだ”とか、落語に出てくる世界を視覚的に楽しんでもらえたら。この番組をきっかけに、落語を好きになる人が増えたらうれしいですね」