一般的に曲げわっぱと聞いて思い浮かべるのは、おひつや弁当箱のような円形や小判型。しかし、秋田県大館市の一角に佇む『栗久』6代目を継承する栗盛俊二さんは、世界で初めて、円錐形の曲げわっぱ製作に成功した名工だ。

 円錐形は逆三角形と言い換えたほうがわかりやすいかもしれないが、コーヒードリッパーのように、上部から底に向けてすぼんでいく形。類似品がほとんど存在しないことからも、その技術の価値がうかがい知れるだろう。

“現代の名工”は陽気な発明家!?

 ……と、この前置きだけでは、いかにも気難しい寡黙な職人を想像してしまいそうになるが、商品片手に説明を始める栗盛さんは、底抜けに明るく人生と仕事を楽しむアイデアマンだ。

栗盛俊二さん◎栗久6代目。伝統工芸士、現代の名工にそれぞれ認定。曲げわっぱの概念を覆す商品を次々と発表し、うち18点がグッドデザイン賞、9点がロングライフデザイン賞を受賞
栗盛俊二さん◎栗久6代目。伝統工芸士、現代の名工にそれぞれ認定。曲げわっぱの概念を覆す商品を次々と発表し、うち18点がグッドデザイン賞、9点がロングライフデザイン賞を受賞

「例えば端をくるっと曲げたこのおしゃれ小皿。常々、商品を作ったあとにできる端材がもったいないなと思ってたのよ。そんなとき、居酒屋で飲みながら、割り箸の袋で箸置きを作ってたら“これ使える!”ってひらめいちゃった。

 おまけに、“はみ出た皿の部分をカットすればぐい呑みになるじゃん!”ってね。栗さん(栗盛さんの自称、以下同)は呑んべぇなんです。酒税いっぱい払ってるから、どっかで返してもらわないと(笑)」

 また、一般的に伝統工芸=手作業のイメージだが、栗久では昔ながらの製法は守りつつ、その工程すべてに便利な道具や機械が導入されているのも特徴だ。

伝統工芸っていうのは昔から受け継がれてきた“作り方の技術”であって、栗さんには機械を使っちゃダメって考えはないの。手でやっていたことを機械に置き換えてるだけ。

 うちも社員がいるんだけど、完全手作業だとどうしてもAさんとBさんで仕上がりが違ってくるんだよね。だけど精密な工程を機械に委ねたり、わっぱのひな型を作ったりすれば、品質の高いモノが正確にできあがるわけ。要は、お客さんにとってどっちが大切かってことよ。同じお金を払って商品を買ってもらうんだから、そこに出来不出来があっちゃいけねぇよな」