犯罪心理学者に聞く

「額は明確にわかりませんが、借金を抱えていたようです。働き手がひとりもいませんから、借金が減るわけはなく、両親の年金頼みという危うさが、事件を招いたとみています」(全国紙社会部記者)

 ところがである。毎日のように聞こえてきた親子ゲンカの怒鳴り声が、

「事件の数週間前からぴたりと聞こえなくなっていました。たまに息子さんひとりで出かけていましたが、逮捕時の映像のようなやせこけた感じではなく、以前は、もっと精悍な感じだったのですが……」

 と前出・50代女性が証言する。もはや死をもってしか解決できない領域に、問題がこじれてしまったのか。

 犯罪心理学者で東京未来大学こども心理学部長の出口保行教授は、

殺人の被害者と加害者の関係を見ると、全体の3割が親族間で行われている。家庭内で非常に強い不満を抱え、それが動機となるのが家庭内殺人の一般的な見方です。

 もうひとつの見方としては拡大自殺型というものがあります。社会的に生きていくことに自信を失い、誰かを犠牲にして自らも死ぬものです」

 と今回の事件において当てはまる殺人の類型を示し、容疑者の心理について続ける。

「借金があったり高齢の両親を残していくことに不安を感じたこと、社会で生きていく自信がないこと、閉鎖性が高く逃げ場のない家庭内でケンカをするなど、ストレスが蓄積していった可能性が高い。自ら死のうと思ったが死にきれず、遺体とひと晩過ごし、冷静になって警察へ通報したという流れではないでしょうか。犯行後に逃走しなかったことを見ても、自宅以外に行き場がない人だったのでは

 買い出しや病院への送迎のため四輪駆動車のハンドルを握っていた長男。お互いに寄り添い、生活してきた46年間の最後は、なんとも悲しい幕引きだった。