児相の職員は裁く人ではない

ーー女児が2度目に一時保護されていた最中の’17年6月、児童福祉法が改正されて、親権者の同意がない一時保護を2か月以上続ける場合には、家庭裁判所の許可が必要になりました。父親が不起訴になったのは5月でした。その後、7月に一時保護を解除して、女児を家に返しました。

大浦 一般的に2か月以上の一時保護が必要であれば、児相は制度を使って、戦うべきところは戦っています。継続している虐待は、放っておけばエスカレートします。ですから、何かの力で外から止めてあげることが必要です。

 親は不起訴なのになぜ、児相が来るのかと言う。しかし、警察と児相は役割が違います。混同することはできません。

 刑法では、疑わしければ罰せずで、不起訴になれば警察の関与は終わります。しかし児相は疑わしいから調査に入る。家庭が子どもにとって安全か否かを確かめます。私たちは親の対応が子どもにとって不適切だと思えば、さまざまな権限を適切に行使して、抑止していく。

 児相の職員は裁く人ではないです。私たちは真実を明らかにした上で、そこから親御さんと向き合って、指導していくのが仕事です。同じ児相が介入して親子を分離する一方で、親への指導をするのは両立しないという意見もあります。しかし、本来の児相の専門性は、電話で通告を受け、相談を開始して、終了するまでの仕事全てです。私たちも同じ人間として、相手の気持ちにきちんと向き合わないと。

うさぎ用ケージ監禁虐待死事件の教訓

ーー大浦さんが足立児相の所長だった’14年、足立区内でうさぎのケージに入れられていた3歳の男の子が亡くなる事件が発覚しました。

大浦 私が赴任したのは’13年4月で、その少し前、3月にお子さんは亡くなっていました。足立児相の私の前任者は、経済的に困窮している多子家庭、ネグレクトの恐れがあるというので、虐待ケースとして受理しました。

 私が赴任する前、2月8日に職員は両親と子どもたち全員に会っていました。それで児相側の心配が解けてしまった。警察の捜査によれば、この時すでにお子さんはうさぎのケージに入れられていたのですが。

 お父さんが児相の対応を無視するのであれば、子どもたちを一時保護することもあり得ました。しかし、お父さんはさまざまな関係機関にさまざまな顔を使い分けて、その真意が見抜けなかった。

 4月に担当が変わった後も、何度も家庭訪問をしましたが、親には会えたり会えなかったり。一度に子ども全員には会えない。立ち入り調査も拒否され、裁判所に許可をもらい警察官を伴って家に入る臨検捜索までしましたが、親はマネキンを使って子どもの数をごまかしました。

 この事件で、親よりも子どもに焦点を合わせなければいけないということが教訓になりました。

――'16年の児童福祉法改正で、子どもが権利の主体であると明記されました。しかし、親を飛び越えて小さな子どもと話をするのは難しいのではないでしょうか。

大浦 児相の専門性の1つは、子どもの年齢に合った言葉で、論理的に説明するということがあります。「◯◯ちゃん、どんなお家だったら安心して暮らせる?」と尋ねて、暴力がない家だと子どもが答えたら、「そんなお家になるように頑張るから、お泊まりできる所で待っていてね」と話すことができます。