あまりにもリアルな臨死体験の世界

辛酸なめ子さん 撮影/山田智絵
辛酸なめ子さん 撮影/山田智絵
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 キラキラ女子ながら、オカルトや陰謀論が好きな元カレの影響で、たびたび悶々と苦悩するレミのもとに出現したのがイルカの守護霊・ヌルランだ。

「ヌルランは普通のイルカではなく、高次元のイルカなんです。しかも、おしゃれが大好きなゲイのイルカ。レミを都会の闇から救ってくれる存在です」

 前半は落ち目のブロガーの日常と、突如あらわれたヌルランとのやりとりで物語は進んでいく。さすがに高次元のイルカだけあって、なかなか鋭いアドバイスを授けてくれる。《スイーツや甘いラテの快感は長くは続かない。血糖値は急激に変化するから心が不安定になる》《誰かに苛立つってことは、自分の中に同じ要素があるってことだよ》《首から上で考えてばかりだから顔にしわができるんだよ》etc.……。あまりに具体的すぎて、つい守護霊ということを忘れてしまいそう! 作中ではブログ読者へのお悩み相談も始めるヌルランだったが、こんな頼れる守護霊ならば自分にも憑いてほしい! と誰もが思ってしまうだろう。

「でも、イルカにもいろいろいるみたいなんです。こちらがネガティブだったり波動が低かったりすると、高次元ではないちょっと低いレベルのイルカのスピリットが引き寄せられることもあるらしいですよ」

 そういえば、小説の中のヌルランも、突然「僕は水族館にいた、ただのイルカ」と告げたりもしていた。つまり、自分次第で憑く守護霊のイルカのレベルも変わってくる、ということかもしれない。

 読み進めていくうちに、レミはいつしか生死を彷徨(さまよ)うこととなり、読んでいるこちらも死後の世界へと引き込まれてしまう。現実の世界、しかも華やかなマスコミ業界と霊界が交錯するなんとも言えない不思議さの中、これが現世の話なのか妄想なのか、だんだんわからなくなる感覚。スピリチュアルな世界にさほど詳しくない人でも、自然な流れで入り込めてしまう展開だ。辛酸さん自身が日ごろからスピリチュアルの世界を探求しているからこその自然な流れなのだろう。霊界にうとい人にも擬似体験ができる描写力はさすが!

 ネタバレになってしまうので詳しくは書けないけれど、さんざん生死をさまよったレミは、いよいよ最後の決断をします。キラキラ輝いた消費世界から少しずつ落ちぶれた悲しきブロガーの末路はいかに?

 天国へ行くのか地獄へ行くのか、あるいは……!?

ライターは見た!著者の素顔 

 毒っ気のあるコメントや、辛辣だけれども的を射たディスりからは想像もできないほど、可愛らしくて華奢(きゃしゃ)な辛酸さん。話し方もとても優しく、か細い声で囁(ささや)くように話してくれました。もしかして、守護霊ヌルランが憑いているのではなく、辛酸さん自身が誰かの守護霊なんでは? と思ってしまうほどでした。皇室ウォッチャーとして眞子さまの動向を気にされているのが印象的でした!

『ヌルラン』 辛酸なめ子=著 太田出版 1600円(税別) ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします 
PROFILE●しんさん・なめこ●漫画家、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。鋭い観察眼と独自の妄想力で世間に物申す。皇室から芸能界、スピリチュアル世界など興味対象は多岐にわたる。著書に『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)、『おしゃ修行』(双葉社)などがある。

(取材・文/アリス美々絵)