名前が出なかったことで「やっぱり」と思わされたのは、SMAPも同じ。大野さんが最初に相談を持ち掛けたのは2017年6月であり、SMAPが解散した2016年12月からわずか半年後のことでした。

 今回の会見でも、「人生を考えるうえでSMAP解散の影響はあったか?」という質問くらいはできるはずですが、いまだSMAPというフレーズ自体がタブーになっていることを再認識した人は多いでしょう。

 もし滝沢さん、渋谷さん、SMAPの名前をあげた質問があったとしても、自然体で聡明な嵐の5人なら、自分たちの言葉でしっかりコメントしたのではないでしょうか。もし返答に困る人がいたとしても、質問することでふだんとは異なる顔を見せてくれたはずであり、そういう取材をあきらめたかのようなメディアの姿勢には首をひねりたくなってしまうのです。

 ただ、これらの忖度をメディアに求めるジャニーズ事務所も、ジャニーズ事務所に忖度して避けるメディアも、「このまま前時代的な商慣習を続けていいとは思っていない」でしょう。ネットの進化によって人々の発信力が高まっているだけに、自分たちの利益を追求するような古い商慣習は批判され、影響力が弱まっていくことはわかっているはずです。

 その後、会見を取材していたメディアらが、「活動休止の真相」「結婚の可能性」などの記事を次々に報じました。しかし、どれも会見で質問して掘り下げられなかった分、表面的かつ憶測の多いものであり、もどかしさを感じてしまいます。

ファンとしての器が問われている

 最後に、かつて「嵐の愛され力~幸せな人生をつかむ36のポイント~」というビジネスパーソン向けの自己啓発本を書いたことがあり、彼らの活動を見続けてきた立場から書いておきたいのは、「今こそファンとしての器が問われている」ということ。

「いつも仲が良く、ファンを第1に考えている」という嵐の人間性や温かさを見てきたファンも、彼らに近いものを身につけているはずです。

 櫻井さんは、「『誰か1人の思いで嵐の将来を決めるのは難しいな』というのと同時に、『他の何人かの思いで1人の人生を縛ることはできない』と思いました」と語っていました。ファンも自分たちの思いだけで、嵐の将来やメンバーの人生を縛ることがないようにしたいところです。

 突然の休養宣言を聞いたばかりの今は悲しみのあまり、ただただ嘆いたり、復活の日を待ったりしてしまうのは仕方がないでしょう。しかし、彼らがくれた約2年の間に、「5人の意志を尊重できる」「気長に待てる」という器の大きいファンに進化すればいいのです。

 嵐のメンバーがどれだけ「復活はあります」と言ったところで、人の気持ちに絶対はなく、不測の事態が起きて、それが実現しない可能性もゼロとは言えません。2020年12月31日まで全力で突っ走るわけですから、もしかしたら大野さんに続いて、「やっぱり僕も休ませてください」というメンバーが現れるかもしれません。

 そんなときに「穏やかに送り出してじっくり待つのか」、それとも「失望や怒りの声をあげてしまうのか」、大きな違いがあります。

 だからこそ彼らに無用なプレッシャーをかけるのではなく、ふと「戻ってきたい」「ファンに会いたい」と思えるムードを作っておくべきではないでしょうか。それが20年間、多くの人々を楽しませてきた彼らに対する、何よりの恩返しになる気がするのです。


木村 隆志(きむら たかし)◎コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。