従業員は何かを見逃していたのかと、セキュリティービデオを巻き戻して見たが、そこに映っている彼女も、やはりきれいな肌をしていたそうだ。また、当時、彼女が友人や姉から顔を殴られるふりをして笑っていたという複数の目撃証言もある。

 それに対し、ハードは、「これは弁護士から言われてやっていること。ジョニーから何か取ろうと思っているわけではない」と言ったという。

 これらの証言や多数のセキュリティービデオの映像は、離婚騒動当時にデップの弁護側が入手していたが、デップ本人の手元にわたったのはごく最近のことだとも、訴状は述べている。それもまた、彼が今あえて立ち上がった理由の1つだろう。

 さらに、元ボディガードや撮影現場クルーなど、あらゆる人から訴訟や、逆訴訟が続いてきたなかで、昨年後半、デップは元弁護士の訴訟で彼が事実上の勝利を収め、やや風向きの変化を感じているところでもあるのだ。その少し前に、元ビジネスマネジャーとの訴訟で示談が成立したことも、少しは肩の荷を軽くしている。

キャリアの転機を迎えるデップ

 また、彼は今、キャリアで新たな転機を迎えつつもある。

 次に出演する2本は、演技派としての実力を見せられそうな、シリアスな作品。そのうちの2本目で、現在撮影中の写真家W・ユージーン・スミスの伝記映画『Minamata』のスチール写真が最近公開されると、業界サイトのコメント欄には、「デップは優れた俳優。彼がドラマやスリラーをやるのを見られるのはいいことだ」「彼の情熱を感じる。彼が大人の映画に挑戦するのはうれしい」「ジョニーの演技の見せどころが多そう。公開が楽しみ」など、ポジティブなコメントばかりが寄せられた。

 彼にはまだまだ味方がたくさんいるということだ。この新スタートを切る今こそ、間違った疑惑を払拭するときである。

 一方で、ハードもきっと黙ってはいないだろう。この訴訟には、彼女がデップと結婚してたった1カ月の頃、デップの不在時に、イーロン・マスクを家に呼び込み、朝帰りさせていたとも書かれているのだ。それに関しても、実名入りのコンドミニアムのスタッフの証言がある。また、そもそも離婚を言い出したのはデップで、彼女はそんな彼をわなにはめたのだともある。

 彼女もまた、なんとしても名誉を守りたいに違いない。闘う女は、これにどう挑むのか。このバトルは、『アクアマン』でやったそれより、おそらくずっと長く、苦しいものになりそうである。


猿渡 由紀(さるわたり ゆき)◎L.A.在住映画ジャーナリスト 神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。