「芸能人の〇〇が好きだから」応募

 もうひとつはテレビ業界全体で発生している人手不足。少しでも早く人員を補わないといけないため、雇う人を選ぶ余裕がないとの声も。

うちはとりあえず働いてくれる人は雇うスタンスでやっています。今どき“ディレクターになって面白い番組を作りたいんです!”という熱意を持った人はそうそういないので……。“芸能人の〇〇が好きだから”という理由で応募してくる子や“やりたいことはないけど、とりあえず面接を受けてみました”みたいな子が多いです」(別の制作会社関係者)

 質の低下はあるにしても、昔もADがミスすることはあったはず。どうして今のADだけ取り立てて問題にされているのだろうか?

昔はSNSがなかったので、電話で直接依頼して、その電話越しで怒られることも多かった。今は連絡先はわからないけどSNSだけわかっている場合、そこが窓口になるというメリットはあります。しかし、ミスをしたらメールの文面を晒されて、さらに何万人という人の非難を浴びるデメリットもある。もちろんミスをするのはいけないですし失礼だと思いますが、なかなか息苦しい世の中だなとは思ってしまいますね」(別の制作会社関係者)

 実際にADとして働く若手たちにも、中森氏の一件や今の働き方についてどう思っているかを聞いてみた。

「取材のアポ取りは、著名な方やすでに関係性がある人以外の、一般人や初めてコンタクトを取る人の場合は、基本的にADが行います。1度に数十人あてにメールを送ることもあるので正直、名前のミスは珍しいことじゃないです。間違えたらいけないとは思いますけどわざと“間違えよう”なんて思ってやっている人はいないのでなんとも言えません」(制作会社AD)

 仕事の面では、今の教育体制に疑問を感じている人も。

「自分から学んでいく姿勢が欠けているのかもしれないと思う瞬間は、正直あります。だけど、番組作りといったものの前に最低限のマナーや一般的な常識を学べる環境というか、そういう研修がほしいと思うこともありますね。他業界の人の話を聞いても、先輩がついて教えてくれるというのはうらやましいと感じます」(別の制作会社AD)

 テレビ業界の教育体制は、今後どのように改善されていくべきなのか。コラムニストのペリー荻野氏に話を聞いた。

「例えば上司が、メールやメッセージだけで“〇〇さんに依頼して”と部下に指示すると、指示された側はどんな人なのか、依頼する目的、過去にお世話になった経験があるのかといった細かいディテールを把握できません。言われたとおりの事柄だけを相手に伝えると、依頼された相手も“なんだこの依頼は”と不審に思ってしまいますよね」

 番組作りに携わるすべてのスタッフが、番組の全体像を把握できる体制を作るべきだと荻野氏は言う。

まず、どういう番組を作るつもりなのかという番組の全体像を把握していないと、その過程で取材する人に説明ができないのは当たり前です。上司は部下にひと通りの流れというか、目的を伝えて依頼する必要があることを教えなければいけないと思います

 全体像をとらえることで、自分が番組へ貢献している意識も芽生えていく。上司と部下のコミュニケーションを、いま1度、見直すべきなのかもしれない。

人を育てないから、常識を知らない若手が増えてしまう。その人たちに後輩ができても、教えられる常識を持っていないから教えられない、だから“教えてもらえない”人が増える……。負のスパイラルですよね」(前出・制作会社関係者)

 未来のテレビ界を担うADを業界全体で育てていく意識改革が必要だ。