「ひとつのテーマにつき、原稿は4000文字。書いていて、核心に近づくことができる話もあれば、最初の意図とは別のところにたどり着くこともあって。ほとんどの話が、あっちいったり、こっちいったりしています

 1テーマ、4000文字の原稿は、本のページに換算すると9~11ページ。大竹さんが言う「あっちいったり、こっちいったり」の話は、予定調和に流れないからこそ、面白く、大竹さんの話をその場で聞いているような気分を味わえる

 思えば、人は面と向かって話をするとき、その大筋をとらえながら、枝をあちこちに広げていくものだ

 本書は、目次にある見出しを見て、今日はこのテーマ、明日はこのテーマという読み方もできる。実際、私自身も最初から最後まで読み終えた後は、その日の気分で、1テーマずつ読んでいる。 

すまん、若者よ

大竹まことさん 撮影/矢島泰輔
大竹まことさん 撮影/矢島泰輔
【写真】柔らかな笑顔で取材に答える大竹さん

 さて、この5月、古希を迎えた大竹さんだが、

「70(歳)になって気づいたことはひとつもない。ただ老いていくだけだね、腰が痛くて、起きるのも、靴はくのも大変。年をとったらこんなに大変だって、誰も教えてくれなかったし」と毒づく。本書の最後に、

すまん、若者よ。君たちに伝える言葉をこの年寄りは持っていなかった」と読者に詫びを入れているが、思わず付箋を貼りたくなるような読者へのエールも並ぶ。

負けを知らずにどうする。長いスランプも後には得がたい経験となる》(『炎上』)

年寄りが泣くのはなにも涙もろくなったからではない。若い時には想像することのできなかった、新しい感情を手に入れたからだ》(『国家に翻弄された民たちの物語』)

近道を選ぶな。近道はただ単に近いだけだ》《頑固になるな。頑固はそこで考えをやめてしまった私のような人のことだ》《最低一回は振られろ》《変態になれ。奇人になれ。群れから抜け出せ》(すべて『春にそなえよ』)

逆境を克服した者だけが何かを手に入れる》(『花水木』)

 ……こうして並べてみると、少々説教くさく感じてしまうかもしれないが、どれも話の流れの中のワンセンテンス。たぶん、大竹さんは説教が苦手だ。それは本書を読めば、誰もが感じるだろう