33歳で余命を告げられた。彼女は残りの日々を瀬戸内海のホスピスで過ごすことに決めます。そこでは、入居者がもう1度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」がありました……。

知らないことによる「死」の怖さ

 小川糸さんの最新作『ライオンのおやつ』は生と死、そして「食べること」を見据えた静かな感動作。

「この作品を書くきっかけになったのは、母ががんで余命を宣告されたときに、“死ぬのが怖い”と言ったことです。私にとって、それがとても驚きだったんです。

 私は母に“誰でも死ぬんだよ”と話したのですが、世の中には母のように死を恐れている人は多いのだろうなと思いました。

 誰にとっても死というのは未知の体験ですし、そこには知らないことによる怖さとか、何が起こるんだろうという不安、そしてもちろん、身体の苦痛もあるし、心の痛みというのもある。

 もっとこうしたかった。これができなかった……悲しみとか後悔とかすごくたくさんそういうものがあると思うんです。でも、亡くなったからって、その人が消えてなくなるわけじゃない。

 私も、母が亡くなってからのほうが身近で、常に一緒にいるような感覚があります。死は悲しみや喪失感だけでなく、逆にもたらしてくれるものもあるのだなと」