高木さんがスイスの団体から幇助自殺の権利を得た際につぶやいたSNSの投稿
高木さんがスイスの団体から幇助自殺の権利を得た際につぶやいたSNSの投稿
【写真】高木さんが幇助自殺の権利を得た際のSNS投稿には「これでやっと死ねる」との文字が

 昨年10月、パラリンピックの車いす陸上女子メダリストのマリーケ・フェルフールトさんは、ベルギーの自宅で医師の投薬を受け、命を閉じた。40歳だった。同国では、一定の条件下での安楽死が合法化されている。

 昨年6月2日、NHKが放送したNHKスペシャル『彼女は安楽死を選んだ』では、重い神経難病の日本人女性がスイスで医師による幇助自殺を受ける過程が放映され、障がい者や難病患者の自立生活を推進する団体「日本自立生活センター」(京都市)が、「障がい者・難病患者の尊厳や生命を脅かす」と声明を発表し、波紋を広げた。

 一方、「尊厳死」は延命治療の手控えや中止を指し、「消極的安楽死」とも呼ばれる。「安楽死」「尊厳死」とも共通するのは「死を実現するための死なせる行為」という点だ。

約200万円の費用には貯金をあてる

 高木さんが、のちのち家族に「まさか本当にやるとは思わなかった」と泣きつかれることになる可能性にアプローチしたのは昨年2月。

「外国人の幇助を受け入れているライフサークルに(尊厳死を希望する意思を記す)リビング・ウィルを提出し、会員費を支払い、入会が認められました」

 お金だけあっても安楽死はできないという。

 幇助の申請は昨年9月末。必要な書類は、本人の強い幇助を希望する旨とその理由を記した嘆願書、家族や親しい人について書いた書類、病名や病状を記載したメディカルレポートの3種類。専門家に翻訳を依頼した嘆願書はA4で約5枚だった。

「問題はメディカルレポートで、書くことが自殺幇助にあたる可能性が否定できない。治療を受けている病院では、拒否されました。最終的に知人の知り合いの医師が理解を示して、書いてくれました」

 このような手続きの結果、幇助自殺の権利を獲得できたが、家族が立ちはだかった。

「話し合いは平行線でしたが、私は両親のために苦痛を押し殺して生きていくことはできない。“私の人生なんだから、もう終わらせたい”と訴え続けました。折り合いはつきましたが、まだ両親は葛藤している状態です。ただし、私が渡航したい意思については一応、了承が得られています」

 そう現状を伝える。申請から渡航費(本人のみ)、現地での火葬後、遺灰と死亡診断書が日本に届くまでの費用は、日本円で約200万円。高木さんは貯金をあてる。

 許可が下りてから高木さんには、変化が訪れたという。

「飼い猫や犬がいつもより可愛く見えるようになりました。心の余裕だな、と感じます。安楽死制度は重篤な疾患にかかったときの救済手段、心のよりどころ。セーフティーネットというか、生きやすさにつながる、副次的な効果をもたらすものとしてもとても期待しています」