第1便のチャーター機で武漢から帰国した日本人男性らの会見。周囲を取り囲む報道陣たちもマスク姿だった(1月29日)

「今日、私は退所しますが、“私は大丈夫だ”とみなさんに本当に見ていただけるのか?」

 武漢からの帰国者は、千葉県勝浦市のホテルでの2週間の滞在後、そんな不安を口にしていた。

「中国人お断り」の貼り紙が物議

 羽田空港に帰国した際には、顔も名前も公表している人もいたが、今回は「偏見」やその「伝播」を気にしていたのだろう。

 イタリアの音楽院では、アジア人のレッスンが中止。サッカー・イングランド代表のデレ・アリ選手は、スマホの写真共有アプリで、中国人と思われる男性を揶揄するような内容を投稿して騒動に。

「普段は、差別はいけないというポリティカル・コレクトネス(政治的公正)でふたをされている差別感情が、非常時になると出てしまうんですね」と関西福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学)。

 今回、日本でも飲食店や商店の「中国人お断り」の貼り紙が物議を醸した。 

 東大大学院情報学環・学際情報学府の橋元良明教授(情報社会心理学)は、ネット社会の現代は“誤情報”がすぐに拡散すると説明する。

「病院や人通りが消えた街などのインパクトのある写真が、短い文章でSNSには投稿されます。根拠がないものや不正確なものもありますが、ネットの性質上、伝播しやすいのです」

 では、これらを止める術はあるのだろうか?

「すぐに否定して抗議することです。逆に、ポジティブな発信をすること。“感染した”→“免疫できた”→“最も安全な人”というイメージ作りです」(勝田教授)

 うわさの大きさは、物事の重要さ×曖昧さに比例するという法則があるので、曖昧さを減らすことが必要だという。

「メディアなどで明確な打ち消しをしていくのが最も効果があるでしょう。うわさの出どころがテレビ、警察、官庁となっていることもあるので、本当にそうなのか調べることも大切」(前出・橋元教授)

 新型コロナの致死率が通常のインフルエンザとほぼ同じだという事実を正確に認識すれば、感染者を過度におそれる必要はないことは明らかだ。