「Iメッセージ」で変わった親子の会話

 憲満さん小学校6年のとき、ひと筋の光明がもたらされた。障がいのある子との接し方をアドバイスする、カウンセリング受講をすすめられたのだ。

「2回目のカウンセリングだったかな、“Iメッセージ”というものを、教えてもらったんですわ」

 Iメッセージとは、主語を“I(私)”にして話しかけるコミュニケーション法のことをいう。主語をYOU(あなた)にして、“あなたは○○すべき”と話しかけるYOUメッセージに対し、“私はあなたが○○してくれればうれしい”と表現し、相手に選択権を与える接し方だ。

 カウンセラーは満さんに、こんな問いかけをしたという。“例えば玄関先で靴が脱ぎっぱなしになっている。まっすぐに脱いでほしいと思ったら、Iメッセージではどうコミュニケーションすべきですか?”

「ちょっと時間をもらって考えて、“お父さんはまっすぐ靴をそろえて脱いでもらえたらうれしいなあ”。そう答えたら、“お父さん、それでいいんです!”

「友達に言われた言葉が引っかかり、家に帰ってから感情を爆発させることもあった」と満さん 撮影/伊藤和幸
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 Iメッセージを使って穏やかな言葉遣いを心がけると、憲満さんの反応も穏やかで、やさしいものになっていったという。

「もともとキツい言い方をされたりすると、“お父さん、怒ってる?”とよく言っていました。なにも怒ってないんやけど、このへんは関西弁で言葉のトーンでキツく聞こえることがある。でもそれ以降は、僕との言葉のやりとりも徐々に変わっていきましたね」

 それまでは、自分の思いやしたいことが伝わらずもどかしさが頂点に達すると、癇癪を起こして満さんらの腕を締め上げ、訴えるようにして暴れていたという憲満さん。

「自分の障がいを理解してもらえないでキツいことを言われると、反発しないと自分が負けているような気がして嫌なんです。口惜しいというか。

 誰でもそうだろうけど、ほんまに真剣になにかが欲しいとき、例えば誕生日とかクリスマスとかすごい楽しみじゃないですか。ケーキとかチキンとか用意して、そのあと高い物を買ってもらうんやけど、売ってなかったとか想定外のことがあると大変やった。1日中、暴れて大泣きして、戦争みたいやったな」

 満さんが当時を思い出し、しみじみと言う。

「大変やと思ったら大変やけど、ちょっとしたことがものすごい喜びなんですよね。例えば朝起きるときに何回起こしても起きなかったのが、自分から起きてくるとか。そんだけのことが、喜びだったんですよね」

 障がいのある子を育てる苦労は並大抵ではない。だが、健常の子を持つのでは味わえない喜びも、またあった。