次に、便乗値上げはあったのかを確認したい。商売人は、欲しい人が多ければ商品の値上げをする。これは倫理的に責められるものではない。当然の行為だ。しかし、このような緊急時には値上げし利潤の追求を目指すのか、あるいは広く公共の福祉に貢献するのかは微妙だ。

 さらに、適正な値上げを行うことにより、需要もコントロールできるかもしれない。行列を減らし、並ぶ人たちの感染リスクを減らせるかもしれない。しかし、同時に、金持ちしか買えないのかと、評判を落とすかもしれない。それは中長期的にはむしろ売り上げと利益にデメリットをもたらすかもしれない。

 結論からいえば、ドラッグストアで過剰な価格高騰は見られなかった。せいぜい、10%ほどの価格上昇という常識的なものだった。

(1)消毒液等
(2)ハンドソープ
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(3)マスク
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「転売ヤー」が価格を異常に釣り上げ

 アマゾンのような通販サイトでは、マスクの価格が10倍以上になるなどの現象が注目された。いわゆる「転売ヤー」とみられるやからのフリマアプリでの異常な価格での出品・転売も目立ち、経済産業省が自粛を要請するほどの大きな問題となっている。出店者たちがここぞとばかりに値上げしたのだ。アマゾンは、出店者に注意を与え、さらに削除などの強硬措置に出るとした。確かに私も異常な価格の出品を何度も見た経験がある。

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 しかし、リアル店舗のドラッグストアにおいては、上記で見られるとおり、過剰な価格高騰は見られない。昨年よりも少し高いように思えるが、品切れで高めの商品も売れた結果と思われる。総合的にも、単価の急騰は見られなかった。もちろん「希望」小売価格の存在が商品によってはあるとはいえ、ここまで平均価格が常識的に抑えられた点は、ある意味、興味深くはある。

 私は価格を2倍とか3倍にするべきだったとは言っていない。ただ、常識的な価格で通常時の数倍以上の需要を引き起こし、過剰な買い占めまで生じたことも、記録として残しておきたい。


坂口 孝則(さかぐち たかのり)調達・購買業務コンサルタント、講演家 大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。著作26冊。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。日本テレビ「スッキリ!!」等コメンテーター。