当事者の日常生活で、目にかわるのが、手、である。

「視覚障害者は、触って手から情報を得ます。外出先でも、いろいろ触らなければなりませんが、みんなが触っている場所は感染リスクが非常に高く、不安もあるので、こまめに手は消毒をしています」(松田さん)

 しかし、不便も生じていて、

「多くの人が消毒液を十分に用意することができていません。マスクもそうですが、並んで購入するにしても何時間待つのか、いつ販売するのかがはっきりせず、情報がまったくつかめない。購入する列や入荷の有無を知らせる貼り紙も視覚障害者にはわかりません。白杖の人が困っていたら“お手伝いしましょうか”と声をかけていただけると非常にありがたいです」

 と社会的支援を期待する。

当事者目線でないと気づかない不便

 道行く人のほとんどが着用するマスク。飛沫感染から人々を守るマスクが、聴覚障害者たちにとっては障壁になっているという。その理由を、『全日本ろうあ連盟』の事務局が、書面で寄せた。

「マスクをつけるとコミュニケーションのひとつである口話(口のかたち)を見ることができず困ります。透明マスクの増産や開発に協力していただける企業などが出てきてくれるとありがたいです」

 透明マスクの開発・販売を手がける『旭創業』の森浩幸常務執行役員は説明する。

「もともとは飲食関係で表情を見せながら食品に唾が飛ばないよう開発されました。聴覚障害のある方々にも役立つということは、最初は考えていませんでした」

『旭創業』の使い捨て透明マスク『マスケットライト』。口元や表情が見えるので聴覚障害者にも心強い(同社提供)
『旭創業』の使い捨て透明マスク『マスケットライト』。口元や表情が見えるので聴覚障害者にも心強い(同社提供)
【写真】表情もはっきり! 口元が見える使い捨て透明マスク

 最近は需要も多く、供給が追いつかない状況だという。

「食品販売の方々や宿泊施設などで導入していただくことが多かったのですが、手話サークル、ろう学校などにも広がりを見せています。笑顔が見えて誰にとっても優しい、バリアフリーマスク、と言えるのではないでしょうか」

 コロナ関連の情報に限らず、聴覚障害者が困る現実は、意外に多い。テレビのテロップで相談窓口の電話番号が記されていても当事者は電話ができない。防災無線など命や生活に関わる情報も音声のみで発信されることも多い。その不便さは当事者目線でないと気づかない。

「病院受診のとき、医師とのやりとりの際には手話言語通訳が必要ですが、手話言語通訳者の二次感染を防ぐために派遣を断られることがあります。遠隔手話言語通訳システムの導入が必要だと思います」(全日本ろうあ連盟)

 学校教育現場で導入が進められているオンライン授業も当事者の前に立ちはだかる。

「聞こえない学生や児童たち、オンライン授業では先生や講師の話がわからず、行き詰まってしまいます。教育を受ける権利を守るためにも、オンライン授業における手話言語通訳や文字通訳付与が必要と考えています。そのためには教育におけるバリアフリーのために予算が伴う緊急措置が必要です」