ロックダウンで“来るな”と言っても働きに来る

 南アの人気観光地は、テーブルマウンテンや喜望峰のあるケープタウン、四国と同じくらいの広さのクルーガー国立公園、旧黒人居住区のマンデラハウス。そして、10月ごろに7万本のジャカランダの花が町を紫色に染めるプレトリアだそうだ。高達さんはガイドとして各地を飛び回ってきたが、「1月の末から予約キャンセルが出始め、2月には続出した」。

「3月27日からロックダウンする」と、ラマポーザ大統領が発表するテレビを見たときの気持ちを、高達さんは「うわっと思った」と表現する。政府判断を信頼するが、旅行業は長期的にダメになるな。家にずっといなけりゃならなくなるのもつらいな。そんなニュアンスだ。

「でも、娘たちは“うわっ”ではなかったんです」

 アフリカ人は、地元が大好きで、家で過ごすのも好き──という文化があるとのことで、彼女らもそう。さらに、「娘たちはインフォーマルセクターなのでね」と。

 インフォーマルセクターとは、経済活動が行政の指導下で行われず、国家の統計など公式に記録されないものを意味する。その構成者の多くは、行政に届出をしないインフォーマルビジネスを生業にし、納税するレベルに達していない人たちだ。

「娘は、配送センター前の路上で、労働者にランチ弁当を売っていて、娘2号もそれを手伝っているんですね。簡単な椅子とテーブルを置き、その場でも食べられるようにして。家賃などがかからない、インフォーマルな弁当屋なんですね」

 彼女たちの収入は少ない。しかし、南アでは、親と同居していても、21歳以上は独立生計を営む別世帯とし、貧困家庭とみなされると一定の社会保障等が支給されるシステムがとられているので、暮らしていける。

「自宅には、知り合いの黒人のおばさんにメイドに来てもらっていましたが、ロックダウンで外出禁止になって“来るな”と言っても、“生きていかなきゃならないから、来る”と譲らない。この人は、ニュースに興味なくて、事態がわかってなかったんですね。結局、給料を渡して、休んでもらうことで、折り合いをつけた」

「この国の複雑さ」につながる、高達さんの身近な例だ。

ヨハネスブルグ・アレキサンドラタウンシップの新しい商業地区(高達潔さん提供写真)
ヨハネスブルグ・アレキサンドラタウンシップの新しい商業地区(高達潔さん提供写真)

「ロックダウン中の禁止事項に、酒とたばこの販売と刑務所の面会が入っていて、この国らしいなと思いましたよ」

 酒は、急性アルコール中毒になる、店で飲んで喧嘩する、飲酒運転で事故をするなどが多発し、「コロナ患者のために空けておかなければならない病院のベッドが埋まるから」。タバコは「呼吸器に支障をきたすから」。そして、刑務所の面会は「特筆しなければならないほど、身内が刑務所に入っている人が多く、みんな日常的に面会に行くから」と、高達さんは言う。