政府のコロナ政策を支持する向きが多い

 4月30日に、NHK BS1で放送された番組『国際報道2020』のなかで、「南アフリカ・学校まで略奪〜新型コロナで社会崩壊寸前」とのタイトルのコーナーがあった。

「その内容がひどかったんです。スーパー併設の酒屋に、黒人の男たちが押し入り略奪した。さらに、居合わせた人たちも次々と酒を盗んだと伝え、それはロックダウンによって食べるものに困ったからだと印象づけた。インチキ報道だった」と高達さんは憤る。

 ギャングが酒売り場に押し入ったのは、盗んで転売するのが目的。ロックダウン以前からそういった闇商売は横行している。居合わせた人たちは、鬱憤晴らしに便乗したという構図。「むしろ、ロックダウンしてからのほうが犯罪は減っているのに。ちょうど、日本で“ロックダウンしないのか”という声が上がっていたころでしょ? ロックダウンするとこうなると歪曲して伝えた。NHKの日本政府への忖度報道だったと思える」

 実際には、南ア政府は、コロナ禍の時期から子どもや高齢者、障害者への社会手当を半年間増額。さらに、従来は社会手当の対象外だった18歳から59歳の人たちへの手当を導入するなど迅速に動いた。「もちろん他国同様、うまくいっていない点もありますが、政府のコロナ政策を支持する向きが多いと感じている」と、高達さんが言う。

ベリアというヨハネスブルグ旧市街の交差点。ベリアの隣のヒルブロウという街が「世界で一番治安が悪い街」と言われたという(高達潔さん提供写真)
ベリアというヨハネスブルグ旧市街の交差点。ベリアの隣のヒルブロウという街が「世界で一番治安が悪い街」と言われたという(高達潔さん提供写真)
【写真】旧黒人居住区内とは全く雰囲気が違う、同じヨハネスブルグの近代的なビル群

 さて、日々の暮らしは?

「仕事は、家でデスクワークのみ。電子書籍を読みまくっています。娘たちが弁当屋を再開したので、孫たちの面倒を見ながら、5人分の食事作りもしていますよ。あ、でも先日はママローズさんから“ヘルプ”が入ったので、80キロほど離れたオレンジファームという地区へ行ってきました」

 ママローズさん?

HIVに感染し、オレンジファームで自助グループを作って訪問看護やコミュニティ作りをしている旧知の女性です。彼女と一緒に買い出しに行って、40人分の食糧や日用品を求めて、あと現金も少しカンパしてきました。額? 合計で8万円くらいだったか」

 こちらの人たちは、カンパの品を受け取ると、独り占めしないで仲間にすぐに分ける。そういう優しい気質があるんですよ、と、高達さんは目を細めた。


取材・文/井上理津子(いのうえ・りつこ)
1955年、奈良県生まれ。タウン誌記者を経てフリーに。著書に『葬送の仕事師たち』(新潮社)、『親を送る』(集英社)、『いまどきの納骨堂 変わりゆくお墓と供養のカタチ』(小学館)、『さいごの色街 飛田』(新潮社)、『遊廓の産院から』(河出書房新社)、『大阪 下町酒場列伝』(筑摩書房)、『すごい古書店 変な図書館』(祥伝社)、『夢の猫本屋ができるまで』(ホーム社)などがある。