演技は早くから相当うまかったようだ。辞めるたび、すぐに誘いの声がかかり、21歳で一流劇団の新潮座へ迎えられた。役者として何がすごかったかというと、存在感が極めて強く、登場場面が短かろうが、見る側に強烈な印象を残した。関西の商家の女将役、庶民階級のおばちゃん役をやらせたら絶品で、役柄と本人が同化していた。

千栄子さんを“救った”
NHK大阪放送局

 私生活では松竹新喜劇を旗揚げした喜劇界の大立者・2代目渋谷天外さんと1930年に結婚。天外さんをモデルにしたドラマの登場人物は成田凌(27)が演じる天海一平である。

 千栄子さんは自分も新喜劇入りするものの、43歳のときに離婚し、退団する。離婚理由は天外さんが若手女優だった九重京子さんと不倫関係に陥り、現在の3代目渋谷天外(66)を生んだからだった。

 独り身になった千栄子さんは行方が分からなくなる。父親のみならず、自分の家族にまで裏切られ、相当傷ついたのだろう。芸能界を離れて、ひっそりと暮らしていた。そんな千栄子さんを捜し当てたのはNHK大阪放送局のスタッフ。どうしてもラジオ番組に出てほしかったからだ。1952年(45歳)のことだった。この仕事を引き受けた千栄子さんは以後、離婚前より精力的に活動する。

 テレビ時代になると、ドラマからの出演依頼も相次ぎ、のちに名作となる『細うで繁盛記』(1970年、読売テレビ)にも出演。NHK大阪放送局のスタッフが千栄子さんを探さなかったら、その後の彼女の役者人生はなかったかも知れない。今回の朝ドラを制作しているのは、くしくもその大阪放送局である。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立