川崎さんは、それに関しても「市が自分たちの対応に非があることを自任していると等しいのではないか」と指摘。

 何よりも、“マニュアルどおりだった”、“正しい手順に従った”という市の主張も、無過失である証明や責任に問われない理由になるのか、というと疑問である。

市は、川の逆流を「予見可能」だった?

 とはいえ、“市の対応ミスが住民の損害に繋がった”と裁判所に認めさせるほどの具体的な証拠などはあるのだろうか。川崎さんは、次のように語る。

3月の提訴に向けて用意している訴状は弁護団にお任せしているのですが、そのなかでは“市は川の逆流を『予見可能』だったにも関わらず対応を怠り、被害を拡大させた”というニュアンスの内容を作成しているはずです

 争点は「予見可能」だったかどうかになるだろう──。川崎さんはこう続ける。

「2017年の台風21号と2019年の台風19号では同じ現象が起こっています。2017年に得たその現象の観測データをきちんと参考にできていれば、台風19号では然るべきタイミングで樋門を閉めることができたんです。

 市は“雨水が街に溢れてしまうのを防ぐために樋門を閉めなかった”という理屈を展開していますが、過去にデータを取っていたことは、『予見可能』だったという証明になるのではないでしょうか

 提訴にあたり、ここまで準備を整えた住民側に対して、市はどう反論していくのだろうか。

 川崎市上下水道局・下水道部の藤田秀幸課長はこう話す。

市としての検証の結果は、住民説明会等の場で丁寧(ていねい)に説明して参りました。訴訟への対応につきましては、実際に訴状が届いてから、その内容を踏まえて適切に対応して参ります

 最後に、提訴内容とその意図に関しても川崎さんに教えていただいた。

損害賠償額としては、慰謝料として100万円。さらに原告約60人分の家財損害額を上乗せする予定です。いちばんの目的は市に“行政側の過ちだった”と認めさせることにあるので、慰謝料は行政訴訟として一般的な額を請求しています

 2019年に台風19号による水害被害を被ってからもう一年以上が経つ。長い戦いを強いられながらも住民側が踏ん張り続ける理由は、川崎さんの説明からも明白だろう。

 3月に提訴することで、この一件は新たな展開をみせる。動向に注目だ。

(文=二階堂銀河/A4studio)