初公判での野上被告は相変わらず質問への受け答えができておらず、話の内容も支離滅裂だ。

 検察官が起訴状を読み終えた直後には、その内容について、

「感想文だなぁと思った」

 と言って、こう持論を展開した。

「私は行方不明の子を探しているだけであって、それに対して誹謗中傷しておとしめているっていうのは関係ない」

 人身売買に関しては開き直った。

「人身売買は世界中で摘発されている。1日に何十件も。みんな親が関与している。だからそういうふうなことを書いて何が悪いんだ!」

 こうした野上被告の供述に対し、弁護士も、

「被告人においては(ブログへの投稿は)社会正義と公益をはかる目的のために必要と考えている」

 と正当性を主張。

「お前ちょっと家まで来いや!」

7月、週刊女性が直撃した様子(手前はノンフィクションライターの水谷氏)
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 この一連のやり取りを傍聴席から眺めていた私は、昨年7月に静岡県熱海市で、野上被告に会ったときのことを思い出した。

 その模様については、『小倉美咲ちゃんの母を誹謗中傷し続けるブログ主を直撃、支離滅裂な「正義」の主張』(同年7月17日付)というタイトルで週刊女性の記事にした。するとブログで私に対する事実無根の書き込みがなされ、その1か月半後には、私の携帯に野上被告から電話が掛かってきた。

「この野郎、ナメた記事書きやがって。お前ちょっと家まで来いや!」

 いきなりそう怒鳴りつけられ、30分にわたって恫喝が続いた。

 そこで今度は『小倉美咲ちゃんの母への“誹謗中傷男”逮捕、記者にもかけていた「脅迫電話30分」』(同年10月16日付)というタイトルで追加記事を発表した。野上被告が逮捕されたのはちょうどこのタイミングだった。

 話は少しややこしくなるが、とも子さんへの誹謗中傷では同じ時期に、もう1人、別の男が逮捕、起訴されている。その初公判を傍聴した際には、野上被告の「信者」とみられる中年女性からしばらく睨み付けられた。無視して退廷したものの、野上被告のブログには私への書き込みが続いていたため、「野上一派」からマークされているのはほぼ間違いなかった。

 だから野上被告の初公判でも、同じような人間が傍聴に来るのではないかと、少し警戒していた。だが、杞憂に終わった。

 とも子さんに対しても、法廷内で野上被告が直接的な暴言を吐くことはなかった。初公判終了後、とも子さんは裁判所前に集まった報道陣に向かって、野上被告と対面した感想を、神妙な面持ちで語った。

「美咲がいなくて苦しみのどん底に突き落とされたまま1年5か月が経っている。そうした家族にあのような言葉をネットに書き綴られていたのは言葉にならないぐらい辛かった。人身売買のために美咲に手を掛けたというようなことを言われたのは事実無根。それが社会正義のためと言われたら、何でも通ってしまう世の中になる

 涙ぐんだとも子さんは、今でも毎週のように、何らかの手掛かりを探すため、山梨に通っているという。

「どこかに美咲が無事で元気でいてくれれば、また笑顔で会えると信じている」

 その手には、美咲ちゃんのお気に入りだったプードルのぬいぐるみがしっかりと握られていた。

PROFILE●水谷竹秀●ノンフィクションライター。1975年三重県生まれ。上智大学外国語学部卒業。カメラマンや新聞記者を経てフリーに。2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で第9回開高健ノンフィクション賞受賞。近著に『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社文庫)など。

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【情報提供先】大月警察暑 TEL:0554-22-0110
情報提供はHP https://misakiogura.com/info/